第706話 奇跡の聖女(20)
「試合ですか? 私は、それなりに試合をしてきました。それなりに経験は――」
竜道寺が困惑した表情で、そう言葉を紡ぐが、俺は頭を左右に振る。
「試合ではない。死合いだ。竜道寺、お前が足を踏み入れる領域は、生死をかけた戦いになる。だから、それなりに慣れる必要がある」
「――え? ――ど、どういう」
俺は大気の原子を操作しゼロコンマ秒で、タングステン製の銃を作り出す。
そして銃口を竜道寺の左腕に向けたあと、トリガーを引く。
途端に、デザートイーグルよりもワンサイズ大きく作り出した拳銃から爆発音と共に銃弾が竜道寺の左腕を吹き飛ばす。
空中に舞う竜道寺の左腕と共に、竜道寺の「ああああああああああっ」と、言う絶叫が周囲に響き渡る。
ボタッボタッと、校庭の地面の上に広がっていく血だまり。
その血だまりの中には、両膝をつき自身の残った左肘を右手で掴む竜道寺の姿があった。
「何をしている?」
俺は銃口を竜道寺に向けたまま、話しかける。
「どうして俺から視線を逸らした? 致命傷でもない癖に」
「あ、あああ……」
泡を吹いて倒れる竜道寺。
「――ったく」
俺は、竜道寺に近づき、脈拍を確認する。
「死んでいるな。こんなに脆いモノなのか。これは時間がかかるな。まぁ、死んでも一分以内に蘇生すれば、脳味噌が無事だから何とでもなるが」
竜道寺の体に手を添えて細胞に干渉。
瞬時に左腕を生やし、起こす。
「あああああああっ!」
絶叫と共に目を覚ます竜道寺。
「腕が! 腕が! ――あ、あれ? 生えてる? ――わ、私は一体……どうなって……」
「状況判断も遅いな」
「――し、師匠!? ――ひっ! ひぃいいいいい」
座り込んだまま俺から距離を取ろうと後退りしていく竜道寺。
「どうやら意識はしっかりしているようだな。その様子だと記憶も問題ないようだ」
「――ど、どうして……自分に対して……」
「だから言ったろう? 死合いだと。お前は、圧倒的に生死をかけた戦いの場での経験が足りてないんだよ。だから、俺からの攻撃を無防備に受けるばかりか、そのあとに致命的な隙まで作った。どれも、戦場なら即! 死に繋がる問題だ」
「――そ、それは……」
「また視線を逸らそうとする。会話をしている間でも相手を視界から離すな。気配を察し、そこから対処法が取れるのならいいが、お前は、そこまで達人でもないからな。1000分の1秒であっても気を抜くな。常に頭の片隅で緊張の糸を保つことを忘れるな」
「わ、分かりました」
「じゃ、とりあえず」
俺は銃口を竜道寺に向ける。
「普通に火薬だけの銃弾だ。まずは避けられるように練習をする」
「え? 銃弾を避け……る?」
「何をありえないと言った表情を向けてくる。銃弾を避けるなんて、戦場における戦闘の基礎の基礎だ。それに避けられなくても痛みに慣れることも出来る。さらに死ねば、どのくらいで死ねるかまで分かるオマケ付きだ」
「……冗談ですよね?」
「すでに一回死んでいるだろ? 俺が蘇生させたんだから安心して死ねるまで修行できるな?」
「待ってください! もう少しステップを踏んでから!」
「俺と組手すると体がバラバラになるぞ? 普通に拳銃から放たれる銃弾を避ける修行の方が遥かに簡単だぞ?」
「師匠は、出来るんですか?」
「そうだな……。見本を見せてやろう」
俺は大気の原子を弄りM60機関銃を作り出す。
「これで俺を狙撃してみろ」
「狙撃って……、これって機関銃では? 一分間500発以上撃てるという」
「だからやってみろ」
俺はM60と2000発ほどの銃弾を竜道寺に渡して距離を取る。
「ほ、本当にいいのですか?」
「くどい。早くやってみろ」
「分かりました」
竜道寺が、M60 機関銃のトリガーを引く。
それと同時に連続的に火薬が炸裂する音と共に無数の銃弾が飛んでくるが――、俺は体を左右に動かし、全ての銃弾を避けていく。
そして一分が経過したところで――、
「――こんな感じだ。わかったな?」
「……師匠の体が幾つにも分身していたとしか見えませんでした」
「まだ、お前の目では俺の動きは見切れないか。じゃ、次の段階も見せてやる。もう一度、撃ってみろ」
「次の段階ですか?」
「ああ。ほら!」
竜道寺がM60のトリガーを引く、
そして無数の弾丸が俺に向かって飛んでくるが、それらを両手で全て受け止めていく。
同じく1分経過し――、
「まあ、ここまで出来てとりあえず半人前ってところだな」
俺は、M60の弾丸を地面の上に落とし語り掛ける。
「……」
呆然自失と言った感じで、俺の言葉を聞いているかどうか分からず、こちらを見てくる竜道寺。
「えっと……銃弾を全て受け止めたのですか?」
「それ以外の何に見える? 銃弾を受け止めたメリットは守る対象が居た場合に弾いたら跳弾で誰か怪我をするだろう? それを防ぐためだ。まぁ最悪、弾いてもいいと思うが」
「それ、人間にはできないと思います……」
「大丈夫だ。そのための修行だからな」
「もしかして……私は、それが出来るまで――」
「そうだ。よかったな? とりあえず銃弾を弾けるレベルまで鍛えてやるから安心しろ」
ニコリと笑みを向けると竜道寺は、白目になり気絶した。
まったく、よく気絶するやつだな。
まぁ、気絶しても死んでも習得するまでは蘇生して修行させるけどな!
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