第703話 奇跡の聖女(17)
「ここが神楽坂修二の部屋か?」
病院内を歩くこと5分近く。
8階の一番奥の個室。
「はい。B棟の8階は、今回のセンチュリータワービルの件の被害者が集められています。今後のことを踏まえますと必要だと思いますので」
神谷警視長が、そう答えてくる。
「そうか……。まぁ、今後のことを考えるとおいそれと機密が漏れるのは不味いからな」
俺は遅れて追いついてきた竜道寺へと視線を向けたあと、神楽坂修二の死体が置かれている個室のドアを開く。
音を立てることなくスライドした扉。
室内に入れば死体特有の匂いが鼻孔を擽る。
「あれが人口呼吸器か」
室内に置かれている機器に一瞬視線を向けたあと、俺は室内を歩きベッドに近づく。
ベッドには神楽坂修二の死体が寝かされている。
「桂木警視監」
「どうした?」
「本当に生き返らせることは可能なのでしょうか?」
「可能かどうかは正直分からん」
「分からない?」
「ああ。まぁ、色々とあるからな」
神楽坂修二の体に手を添える。
「師匠」
「黙って見ていろ」
「――は、はい!」
「神谷」
「はい。人工呼吸器の取り付け方は知っているか?」
「――いえ」
「そうか」
――なら、俺が自分でやるしかないか。
まずは、死体となっている神楽坂修二の細胞に対してアプローチをする。
その際に遺伝子配列を弄る。
生物としては生きている状況にまで肉体を活性化させた上で、俺は人工呼吸器を神楽坂修二の体を繋げる。
「よし、できたな」
「桂木警視監は、医者としての心得もあるのですか?」
「心得か……」
まぁ、正確に言えば戦いで必要だから医者としての知識を無限の書庫から仕入れたんだが。
「呼吸の確認は出来たな。あと、他の被害者も同じことをするぞ」
「分かりました」
「はい」
神谷と竜道寺を連れてセンチュリータワービルの被害者に対して人工呼吸器を付けていく。
全員の人口呼吸器接続を終えたあと、神谷の案内で院長室に案内される。
「こちらが山王総合病院の元・院長が利用していた院長室になります。とくに手は加えておりません」
「なるほど」
ドアノブを回して院長室に入れば、掃除はされているが様々な資料やファイルが壁のラックに並べられていた。
扉から入り、すぐに近くに設置されていたソファーに腰を下ろす。
「竜道寺、お前も休んだらどうだ?」
「――は、はい」
歩くだけで精一杯なのか、竜道寺は恐る恐ると言った様子でソファーに座る。
院長室まで案内してきた神谷と言えば、遅れて部屋に入ってくると缶コーヒーを3つテーブルの上に置く。
「桂木警視監、お疲れ様でした」
「ああ。神谷も申し訳なかったな。無理を言ってしまって」
「いえ。それよりも、桂木警視監に医療の知識があるとは思いませんでした」
「そうか」
「はい。それよりも、これからはどうしましょうか?」
「とりあえず、この格好で今後は病院の中では通そうと思う。その方が色々と都合がいいからな」
「それは、桂木警視監の姿を隠すという意味ですか?」
「まぁ、それはあるが……」
都に、俺の存在を見せないという意味合いが本来の目的だが。
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