第701話 奇跡の聖女(15)

「師匠、待ってください――ッ!?」


 途中まで言いかけたところで竜道寺は声にならない声をあげる。

 それは、男から女に肉体変化をさせたことでバランスが違うため、再度、後部座席のシートに倒れ込んだからだ。

 その際に衝撃に――、肉体からの信号に竜道寺は顔を顰める。


「何だ?」

「二人とも、この格好では――」

「ああ。そうだな……」


 俺だけなら問題はない。

 何せ竜道寺は体格もいいし、威圧感もあるだろう。

 まぁ、一般人から見たらだが。

 それよりも女装男子二人になっているのは、身元が不明という事で病院の入り口を警備している警察官に職質を受けるのは確定だ。

 俺は携帯電話を取り出す。

 そして――、数コール鳴ったところで


「神谷です」

「俺だ」

「俺とは?」

「桂木だ」

「……ずいぶんと可愛らしい声ですけど……」

「遺伝子を弄って女装している」

「…………いつも思いますが、桂木警視監」

「何だ?」

「少し非常識な気がします」

「細かいことは気にするな。それよりも――」

「分かっています。女体化した桂木警視監が病院の中に入れるように手配をすればいいのですね?」

「分かっているじゃないか」

「はい。丁度、私も山王総合病院に来ておりますので、直接、対応させていただきます。それで、どのような恰好に女体化したのでしょうか?」

「銀髪碧眼だ」

「以前とは違うのですね?」

「まぁな」


 以前と同じだったら、都が父親を見舞いに来た時に鉢合わせたらバレるからな。

 そのことを神谷に言う必要はないが。


「分かりました。それで竜道寺警視は?」

「俺の弟子になったから、今は体の操作方法を教えるついでに女装させている」

「……それは人前に出して大丈夫な女装なのですか?」

「問題ない。遺伝子レベルで操作して妊娠出産まで可能な女装だからな」

「それは、女体化なのでは?」

「それよりも、あとどのくらいで病院入り口に来られるんだ?」

「あと1分ほどです。私が病院内から出てきたら向かってきてください」

「分かった」


 電話を切る。


「師匠、今の電話は……」

「神谷に連絡を入れていた。どうやら、こちらの現場に来ているようだ」

「……警視長がですか?」

「ああ。俺も、ここに来た理由は分からないが短時間で色々と手配してもらったからな。色々と込み入った事でもあったんだろ」


 細かいことまで聞こうとは思わない。

 仕事の仕方は人それぞれだからな。

 竜道寺が四苦八苦しながら、女に変化した体を動かしながら車内から出ると深く溜息をつき、右手で自身のスカートに手を添え胸元を左手で隠す。


「何かおかしな点でもあったか?」


 竜道寺の遺伝子を原子レベルで弄り、Y遺伝子から情報を抜き解析した結果、作り上げた竜道寺の女性ボディは完璧なはずだが?

 バストも90センチ近くあり、くびれもあり、尻も発達している。

 どこに出しても恥ずかしくない女の体のはずだが……。


「おかしな点だらけです!」


 何故に顔を赤らめて答えてくるのか。

 服装だって、エロゲームのナース服を参考に、竜道寺のダークスーツを作り変えただけだというのに。

 まぁ、たしかに少々膝丈が高いと言えば高いが、特に問題はないだろう。


「ふむ……。普通に問題ないと思うが……」

「師匠。この看護師というかナース服は何から参考に作られたのですか?」

「エロゲーに決まっているだろう? 俺がナースがいるような病院にかかると思っているのか? 何ならエロゲー系の病院系の制服に詳しいまであるからな」

「だから……ですか……」

「ふむ。まぁ、それよりも神谷が病院から出てきたみたいだぞ?」


 下らない会話を竜道寺と行っていたところで、病院入り口から出てきた神谷が周囲をキョロキョロと見ていると、俺たちを発見してダッシュで向かってきた。


「――か」

「どうした? 随分と困惑した表情で」


 俺の返答に神谷が深く溜息をつき、俺の横で恥ずかしがっている竜道寺に視線を移し、再度、深く溜息をつき――、


「いえ。この娘は?」

「竜道寺だ」

「……」


 空を見上げる神谷。

 空は既に深夜だから何もとは言えないが青空を見ることはできないぞ?


「――と、とりあえず事情をお伺いしても?」

「事情? 竜道寺の修行の一環でもある。それ以外は、用心だな」

「用心ですか……。竜道寺警視」

「――は、はい」

「その……そのエロいナース服は……」

「師匠が……」

「あー」

「何で、そこで俺を見てくる?」







 

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