第700話 奇跡の聖女(14)第三者視点

 南極大陸、ロシアのボストーク基地が存在していた場所に大きく開いた直径100キロメートルを超える大穴の中心部には、銀色に光る円形の大地が存在していた。

 大地は、白夜という事もあり太陽の光を鈍く反射しており、一目では鏡のように空を写していた。

 その金属製の大地の中央部には無数の高さ1キロを超える尖塔が立ち並んでいた。

 そして数百を超える尖塔の内側――、一際高く聳え立つ尖塔の屋上には一人の白髪の男が立っていた。

 男は、身長が2メートル以上あり、筋骨隆々と言った様相であったが、その表情は――、眉間に皺を作り自身の視線の先――、空中に表示されていた画面に映り込む桂木優斗を見ていた。


「アザトース様。どうかされましたか?」


 声と同時に、尖塔の屋上――、出入り口は何も存在していない場所に光の粒子と共に一人の女性が姿を現す。

 女性は、赤い瞳に赤い髪を有しており、その髪は背中どころか腰まで伸ばされていた。

 身長は180センチ近く、表情は無表情であった。


「マアナか」

「はい。それよりも、その家畜の映像を以前から何度も見ておりますが、どうかされたのですか?」

「うむ。我が眷属が2人殺されたようだ」

「二人ですか?」

「ああ。それも戦闘に特化した連中だ」


 映像に映る桂木優斗を見ながら、マアナという女性に視線を向ける事なくアザトースは答える。


「家畜が創造主である我らに牙を剥き、尚且つ滅ぼしたというのですか? 復活は?」

「再生データ自体が消し飛んでいる」


 その言葉に、マアナの視線は、アザトースから、自身のボスであり指導者たるアザトースが視線を向けている桂木優斗へと向けられて――、その途端、眼を大きく見開く。


「――こ、これは……、反物質ですか?」


 女性は――、マアナは震える声で言葉を紡ぐ。

 反物質の生成。

 それをアザトース達は作り出すことは出来る。

 それだけの文明力を有しているから。

 ただし、作れることと運用することは別問題であった。

 反物質を作りだすことは出来ても生み出すエネルギーと作り出す為のエネルギーが割に合わないからだ。

 だからこそ、アザトースが視線を向けている先――、その画面に映っている桂木優斗が生み出した反物資が山を消し飛ばした光景は理解が追い付かないレベルであった。


「……に、人間が反物質を作れるほど文明力が上がっているという事でしょうか?」


 震える声でマアナは言葉を絞り出す。

 もし、それが本当ならエネルギー供給という面だけを見るのなら、その文明力――、カルダシェフ・スケールから言えば銀河連邦が口を出してきてもおかしくない程であったからだが……。


「いや、どうやら信じがたいことだが……」


 アザトースは、一瞬だけ口を濁すと――、


「人間単体――、しかも何の機器も使わずに身一つで生み出したようだ」

「――そ、そんなこと、ありえません!」

「分かっている。だからこそ、桂木優斗という男の動向をここ最近ずっと確認しているのだ」

「そ、そうなのですか……。――で、ですが! もし生物単体で反物質を作り出して運用することが可能だった場合、大変な脅威になりかねません」

「うむ。だからこそ、全ての眷属を一時的に戻しているのだ」


 そのアザトースの言葉に、マアナはアザトースの眷属が都市に戻ってきている事に対して『なるほど』と、納得する。

 地球環境は、彼ら来訪者に対して未だに改善されてはいない。

 酸素という毒素が地球に存在している限り、都市の生命維持装置を利用しなければ地球では生きてはいけない。

 その生命維持装置のエネルギーを回すほどの余裕もないほど、アザトースが桂木優斗を警戒しているとマアナは理解する。


「それでは、桂木優斗という生命体には――」

「同盟を結びたいと考えている」

「家畜と同盟ですか?」

「ああ。これを見て見ろ」


 アザトースが、一つの映像をマアナに見せる。

 そこには、桂木優斗により山どころか木々や生物が再生されていく様子が映り込んでいた。


「こ、これは……」

「我々には必要なモノであろう?」

「物質の再構成……、こんな事が出来る生物なんて聞いたことが……、我々が作り出した家畜の突然変異でしょうか?」

「わからん。何度、映像を見ても理解が出来ん。化学班が解析しても、そのエネルギーが、どこから流れてくるのかすら解析すら出来なかった」

「……まさか、安倍晴明では?」

「それは違うようだ」

「――では……」

「本人の直接対話する他ないな。丁度、家畜が集まる国連から桂木優斗に対して、我々の都市がある南極大陸への探索依頼が出たようだからな」

「それでは、桂木優斗の肉親や親類縁者を人質に取るという方法も出来ますね」

「どうであろうな……」


 マアナの提案に、アザトースはしばし沈黙すると口を開く。


「マアナ」

「はい」

「この桂木優斗が我らが南極大陸に向かったと同時に――」


 そのアザトースの言葉と同時に空中に一つの映像が映し出される。

 そこに映り出されたのは一人の少女。


「この神楽坂都という女を捕まえてこい」

「分かりました」

 


 

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