第698話 奇跡の聖女(12)
「痛いと思うから痛いんだ――、と言う根性論は口にするつもりはない」
「――し、師匠?」
「痛い物は痛いからな。――だが! 身体構造を短期間の間に把握するためには、筋トレやスポーツとかでは時間が掛かりすぎる。なので、我慢して耐えるしかない。それに、竜道寺は民を守るために力を欲したんだろう? 俺に弟子入りしたんだろう? だったら、無理をしてでも自身の体に対してのアプローチについての方法を理解して覚えないとな」
「わ、分かりました」
まぁ、竜道寺の肉体の感度を100倍にしているから、少しの動作だけでも、それだけ脳に肉体が受けた刺激がフィードバックされるんだがな。
だからこそ、意味はあるんだが。
――それから1時間半、山道を登った先――、山王総合病院の入り口に到着する。
病院内の駐車場に入ったところで、何台もの警察車両が病院入り口近くに停まっているのが見えた。
「病院の敷地内に到着しましたが、どうしましょうか?」
「そうだな。とりあえず、車を駐車場に停めてくれ」
「分かりました」
病院の駐車場に車が停まったところで、
「それで、どうしますか?」
「まずは病院に入る前に、やることがあるからな」
「やることですか?」
「ああ」
俺は、答えたあと、自身の体を構成している細胞を原子レベルで組み替えていく。
もちろん、原子レベルで細胞が再構成されていくことからゴキボキという音が車内に響き渡る。
それは10秒ほど掛り、
「こんな物か」
首を回し、変質させた自身の肉体を動かしたあと、ブカブカになった着ていた服も原子レベルで再構成し、女医が着ているような服装へと変化させた。
「……し、師匠?」
「何だ? 竜道寺」
戸惑いの表情で、こちらへ声をかけてくる竜道寺の名前を呼ぶ。
「――い、いえ……。それが師匠の技の一つで?」
「違う。ただの女装だ」
「……じょ、女装? 何だか骨格の輪郭から服装から声色まで全てが変わっていますが……」
「まぁ、原子レベルで細胞を変化させて女になっているからな」
「それは、すでに女装ではないのでは……?」
「また異なことを言ってくれる。完璧な女装と言ってくれ。ちなみに妊娠も出来るぞ? 完璧な女装だろ?」
「……何と言っていいのか……」
「とりあえず行くぞ」
俺は女装した姿で車から降りる。
その姿は、銀髪、碧眼の異世界ではハイエルフ族の聖女と呼ばれた女の姿。
つまり、他人の容姿を丸パクリした姿だ。
まぁ、俺本来の姿で病院に顔を出してもいいんだが、都の件があるからな。
もし父親を治療中に俺が病院にいたらメンドイことになるこの上ないから。ここは聖女の姿を借りるのがベストだろう。
「――ッ!」
俺のあとを追って来ようとした竜道寺が顔を顰める。
どうやら感度100%になった肉体から得た負荷により、痛みを覚えているのだろう。
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