第697話 奇跡の聖女(11)
車は走り出し山武郡へと向かうために東金街道を走り始める。
「何か他に理由があるのですか?」
竜道寺が運転をしながら、何か理由があるのか確認してくる。
「まぁな。とりあえず、お前のことがあるからな」
「自分のことですか?」
「ああ。一応、俺の弟子ってことになったからな。そうなると必然的に俺と敵対している連中と狙われる可能性がある。なので、お前を鍛えないといけないからな」
「それと、車で向かう理由に何か理由でも?」
至極全うな意見を竜道寺が口にしてくる。
まぁ、俺がどういう修行を竜道寺にするのか分からないのだから仕方ないと言える。
「ああ。竜道寺」
「はい」
「お前は、誰かを守るための――、日本国民を守るための力が欲しいという理由で俺に弟子入りしたな?」
「そうですが……」
「そうか。――なら、まずは自分を守る為の力を手に入れないと話にならない。他人を守るためには、まずは自身を守ることが最優先だからな」
「それは、自分が負ければ守ろうとした人間の命運も一緒に尽きるということですか?」
「そんなところだ。――で! ここからが話の本題だが、霊力、魔力が無い――、つまり特別な才能がない人間が力を手に入れようとしたら地道な修行しかないわけだ」
「それは誰でもしている事なのでは?」
「まぁ、それはそうだな。だが、俺が使っている力というのは、普通では中々たどり着ける領域には存在しない。頑張れば誰でも到達できるがな」
「そうなのですか?」
「ああ。だが、問題は、そこに至る道が大変という点だな」
「たしかに師匠の強さは次元が違いますからね……」
竜道寺は、淡々と答えてくる。
「――で! まずは竜道寺には肉体操作を覚えてもらおうと思っている」
「肉体操作ですか?」
「ああ。身体強化ともいう。問題は、特別な才能がある連中とは違って俺たち脆弱な人間は自身の肉体を気合で何とか強化しないといけない点にある」
「気合って……」
「まぁ、最後まで話を聞け」
「分かりました」
「普通の人間には筋肉はあるな?」
「ありますが……」
「――で! その筋肉の総量というのは中々増えない」
「それは存じています。時間が掛かるという事は重々承知しております。私も柔道日本選手権の代表でしたから」
俺は足を組みながら頷く。
「そこで、まずは身体操作を覚えてもらい火事場の馬鹿力を自分の判断――、任意で使えるようにする」
「――え?」
「だから火事場の馬鹿力を自分自身でコントロールできるようになってもらう。とりあえずは、これで戦闘力は2割ほど上がるはずだ」
「常時、火事場の底力というのは大丈夫なものなんですか?」
「大丈夫じゃないから一緒に車に乗っている間にサクッと終わらせようとしているんだろう?」
「え? そ、それって! い、今からですか?」
「ああ。今からだ。火事場の馬鹿力ってのは、下手に扱おうとすると筋肉と骨に致命的なダメージが蓄積するし膨大なエネルギーを消費するからな」
「普通に危険な言葉しか聞こえて来ないのですが……」
「大丈夫、大丈夫。すこーし痛いかも知れないが、慣れるから問題ない」
「全然っ、問題ないように聞こえないのですが?」
「気にするな」
俺は、運転をしている竜道寺の肩に手を置く。
「少し痛いかも知れないが、とりあえず慣れておけ」
竜道寺の筋肉――、そして脳波を操作する。
それと共に、竜道寺がブレーキを踏むと両腕で自身の体を抱えると震えだす。
「――こ、これは……」
「少し痛いと思うが、まずは肉体の神経と筋線維の繋がりと感度を100倍にした。その状態で自身の体を動かしてみろ。一日もすれば慣れるはずだ」
「こ、これは――、慣れるというレベルでは――イダダダダダダダッ」
まったく肉体と神経回路の繋がりを――、感度を100倍にした程度だというのに大げさな奴だな。
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