第694話 奇跡の聖女(8)

 エリカが、出かけていると聞いたあとは、リビングでくつろぐ。

 しばらくソファーに座っていると、何か肉の焼ける良い匂いが台所からしてくる。

 そして妹と白亜が、それぞれ肉がのっている皿をリビングのテーブルの上に置く。


「お兄ちゃんがね、何だか疲れているみたいだから、白亜さんが良いお肉がいいって言ってたから買ってきたの」


 そう妹が心配そうな表情を俺に向けてくる。

 

「そうか?」

「うん。胡桃ね、何となく分かるもん」

「……」


 思わず無言になり白亜の方を見る。

 白亜は、俺からの視線にばつが悪そうな顔をして視線を背けた。

 どうやら、神楽坂邸に行く前から、俺のことを式神を使って視ていたようだ。


「それにしても……。これは、かなりいい肉なのでは?」

「お兄ちゃんの給料で」

「そ、そうか……」


 そういえば、一応、俺は公務員だったな。

 そして、それなりに階級の高い公務員で――、なので必然的に給料もそこそこなのだろう。


「駄目だった?」

「――いや、たまには贅沢をするのもありだよな」

「うん!」

「さすがご主人様じゃ!」

「お前とは一度、きちんと話す必要がありそうだな? 白亜」

「それは勘弁してもらいたいのじゃ。ご主人様に何かあれば、こちらにも影響があるのじゃ」

「それを言われると何も言えないな」

「では――」

「分かった。とりあえず、俺に振り込まれた給料については、胡桃が管理してくれ」

「いいの?」

「今までもずっとそうだったろ? 今は、両親から振り込みが滞っているんだから。それよりも、きちんと学費は払えているのか?」

「うん! 何とか大丈夫なの!」

「そうか。足りないなら言えよ? ある程度なら融通が効くからな」


 まぁ、実際のところ、どの程度まで融通というかお金が動かせるかは神谷に確認しないと何とも言えないが、屋敷を一件ポーンと購入できるくらいの金は簡単に動かせたのだ。

 それなりの金は融通できるはずだ。


「わかったの。それよりも、お兄ちゃん」

「どうした?」

「ご飯は大盛で?」

「ああ。大盛で頼む」


 どう見ても国産和牛ステーキと言った具合だ。

 ならば、それなりの量の白米が必要になってくるだろう。

 俺は胡桃がよそってきた白米とステーキを食べる。

 すると、緊急速報ニュースがテレビ画面に流れた。


「――緊急速報ニュースです。ウクライナ大使館のキース大使が何者かにより殺されたと日本国政府から発表がありました。犯人はロシア系の――」


 続けてウクライナ大使が殺されたことがニュースとして流れている。


「お兄ちゃん。これって……」

「ああ。これは……不味いな」


 あまりにもタイミングが良すぎる。

 エリカがウクライナ大使館に向かったと話には聞いていたが、それと関連性が無いとは言いきれない。

 エリカが、大使を殺すような真似をする事はないと思うが、それを日本の警察やウクライナ国が信じるかどうかは別問題なわけで――、


 ――トウゥルルル。


 そこまで思考したところで携帯電話が鳴る。

 表示されている番号は、非通知。


「俺だ」


 まずは電話に出て見る。

 それと同時に落ち着いた声色で――、


「夏目一元と言います」


 そう、電話口の相手は自己紹介をしてきた。


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