第690話 奇跡の聖女(4)第三者視点
西麻布の一等地。
在日ウクライナ大使館周辺の道路には、日が沈んだ中で数人の黒服の男達が立っており、物々しい雰囲気を醸し出していた。
「巡査長、どうして我々が他国の行動において警護につかなくてはいけないのですか?」
「上役からの命令だ」
「ですが――」
ウクライナ大使館からの日本国政府への要請。
それを快諾した日本政府は、警視庁へ警備の人員を依頼かけたのだ。
理由は、警備を行っていた数十人の覆面警察官の前を過ぎっていった一台の黒塗りの外交官ナンバーの車に乗っている人物にあった。
車は、ウクライナ大使館の門前に停まる。
その車の後部のドアをウクライナ大使館前でずっと待っていた身長2メートル近い男が開けた。
そして車の中から出てきたのは誰もが目を奪われるほどのロリ系の美少女であった。
銀色の髪にルビーのような赤い瞳を持ち、ウクライナの民族衣装を身に纏った神秘的なまでの少女。
造形は、ありえないほど整っており、一つ一つの動作には淀みを感じることもなく気品すら身に纏っているようであった。
「アディール・エリカ・スフォルツェンド様。大使がお待ちしております」
「分かっているわ」
そうウクライナ語で返した彼女――、エリカは表情を一切変えることなく語り掛けてきた軍人とも見分けがつかないほどの体躯の男を目の前にして気圧されることなく顔を上げた。
二人の会話は、ウクライナ語で会ったため、周囲を警備していた警察官が理解する事は出来なかったが、エリカがウクライナ大使館において重要な賓客であろうことだけは、警視庁が動いたことからも明らかであり、警察官たちも理解していた。
問題は、どうして警視庁がたった一人の賓客を――、それもウクライナ大使館に足を運んだだけの少女のために動員されたのかまでは理解の想像が追い付かなかっただけだが。
「それでは、ご案内致します」
そう言葉を続けた男はウクライナ大使館の正門を開けると、エリカを案内する。
大使館内の敷地内を歩き、建物の中に通されたエリカはウクライナ国の大使が待つ部屋に通される。
「キリルカ大使。アディール・エリカ・スフォルツェンド様をお連れ致しました」
「ああ。通してくれたまえ」
中からの声に、エリカを案内してきた大男は扉を開けると、部屋に入ることもなくエリカへ部屋の中へと入るようと無言の圧力をかける。
一般人であったのなら、普通に恐怖を覚えるほどの威圧であった。
ただエリカにとっては、まったく何も感じることもなく、大男が開けた扉を通り部屋の中へと歩を進めた。
部屋に入ると扉は音を立てて閉まる。
エリカは室内を見渡し口を開く。
「どういうつもりで私を呼んだの? もうウクライナ政府とは私は関係がないはずだけど?」
そう言葉にしたエリカの視線の先は、執務室の一角に向けられた。
そこには金髪の偉丈夫な男が座っており、立ち上がると――、
「酷い事を言ってくれる。祖国が今はどういう状況なのか知らない君でもないだろう? オリジン・シスター」
ニヤリと、薄気味わるい笑みを浮かべると、男はそう口にした。
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