第689話 奇跡の聖女(4)

「ウクライナで何かあったか?」

「ロシアから侵略戦争を仕掛けられているであろう?」


 俺の問いかけに、さも当然の如く答えてくる白亜。

 顎に手を当てながら、俺は【そういえば――】と思考する。

 そんな話が、俺が異世界に召喚される前にあったような気がすると。

 ただ、そのことで一つの疑問が浮かびあがる。


「神社庁は許可を出したのか?」

「どうであろうか? ただ、エリカの国籍はウクライナ国となっているようじゃ」

「それならウクライナ大使館からの連絡を無碍にすることは出来ないか」

「うむ。ただエリカは気にしておった。ご主人様と契約を結んでいる以上、報告を怠って自宅を留守してもいいのかと」

「……まぁ、それは仕方ないんじゃないか? 白亜も俺が何処に出かけていたのか知らないわけじゃないだろう?」

「流石は、ご主人様じゃ」

「お前には――」


 そこまで口にしたところで、胡桃が興味深々と言った様子で俺と白亜を見てきていたので、喉まで出かけた言葉を呑み込む。


「まぁ、いい。それよりも――」

「エリカが戦争に駆り出されるようなことはないと思うのじゃ」


 まるで俺の心を読むかのように白亜が口にする。


「ご主人様の庇護下にエリカは置かれているはずなのじゃ。もしエリカに干渉してくるのなら――」

「俺への説得をウクライナ政府は行ってくることは考えられるということか?」

「そうなるのじゃ」


 土間から上がりながら、白亜の言を聞き流しつつ、俺はリビングに向かう。

 リビングで、コートをソファーの上に置いてから、ソファーに座る。

 ギシッと軽い音を立てて俺の体を受け止めるソファー。

 俺はテーブルの上に置かれているテレビのリモコンを押す。

 テレビの電源が点灯すると共に、チャンネルをニュース番組に変える。

 すぐにテレビはニュースを流す。

 それは臨時ニュースで、千葉センチュリービルで発生したガス爆発についての内容であった。


「あれ? お兄ちゃん」

「どうした? 胡桃」


 玄関から台所に直行し、飲み物を冷蔵庫から持ってきた胡桃は、俺の横に座ると不思議そうな声色で言葉を口にする。


「センチュリータワービルで発生したガス爆発だけど……、たくさんの人が死んだってニュースで流れてたけど……」

「そうなのか?」

「うん。でも――」


 胡桃が、不思議そうな表情で――、


「重軽傷者しかいないってどういうことなのかな?」

「俺に聞かれても分からん」


 肩を竦めつつ、胡桃が持ってきてくれた炭酸水のペットボトル――、そのキャップを開けてから口をつけた。

 炭酸が、体の中に入ってくる。

 少し意識がハッキリとしてきたところで――、『どうやら、情報操作を神谷が始めたな?』と、納得する。


「ご主人様、良かったのですか?」


 どうやら白亜だけは分かっていたようだ。

 そりゃ、神楽坂都の守護を任せていたのだから、俺が神楽坂家で何をしたのか分かっているのだろう。

 だからこそ、そういう確認方法をしてきたと思うが――、


「ああ、問題ない」


 唯一の問題は、本当の意味で生き返らせることが出来ないという点か。


 

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