第683話 葬儀(11)
ジッと見てくる静香さんから、俺は目を背ける。
それと共に話題を変えるべくして、口を開く。
「それよりも、例の倒れていた連中の件だが――」
「ふう」
俺の言葉に、肩を落として溜息を漏らす静香さん。
「優斗君。貴方が、娘のことを大事に思っていることは理解しているわ。普段の言動――、そして都から聞いた言葉が全てを物語っているもの……。――でもね、一つだけ覚えておいて」
その言葉に「何を?」と、言う藪蛇になりそうな事は言わない。
無言で彼女の言葉に耳を傾けるにとどめる。
「人には心があるの。体だけが無事だからって、それで全てが良しとは限らないの」
「そんなことは……」
十分に理解している。
そう言葉を呟くそうになったところで――、喉まで出かけた言葉を俺は飲み込む。
「分かっていると言いたげな感じよね?」
思わずコクリと頷くが――、
「――優斗君。人は、健全な行動は心身が満たされているからこそ行えているという事は知っているかしら?」
「……」
「体が無事だったから――、だから問題ない。それは、本当に正しい事なのかしら? 夫が死んでも娘が無事なら本当に問題ないのかしら? 人の心は、そんなに単純な計算で出来ているのかしら?」
「……」
「どんな人でも、大事な人というのは必ずいるわ。とくに家族などね。実の血が繋がっている近親者が逝去したのなら、その痛みはどれほどのモノか分かるかしら? 分かるわよね? 貴方なら」
「……俺なら?」
静香さんの、その言葉に俺は首を傾げる。
「貴方の両親のこと。ご両親が亡くなられた時、貴方はどう思ったのかしら?」
そう俺の目をまっすぐに見て静香さんは語りかけてくるが、俺にその言葉は何の感慨も抱くことはなかった。
何せ、実の両親に関する記憶は、既に殆ど存在していない。
だからこそ、都の母親が俺に語り掛けてくる言葉は人の感情や共感性に訴えかけてくるものであったとしても全く響くことはなかったが――、
そして、俺の態度から意味のない事だと静香さんは察したのだろう。
「優斗君は、本当に娘のこと以外に感心がないのね」
やはり俺は無言で静香さんを見るだけ。
「ねえ、優斗君。娘を守るという事は、体を守るだけじゃなくて思も守る必要があるのではなくて?」
「どういうことだ?」
実際に都には傷一つない。
なのに、静香さんの言葉の節々から、俺の行動は間違っていると感じる。
「ふう。本当に大事な人を守りたいのなら、体だけじゃなくて心も守らないといけないこと」
「俺は……、都を守りきれてないのか?」
思わず、そんな言葉が自身の唇から零れ落ちた。
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