第680話 葬儀(8)

 俺の言葉に、都の母親である静香さんが悲しい表情をする。

 どうして、俺の言葉に、そんな表情をするのか……。


「優斗君。あの子には、貴方の存在が今は必要不可欠なのよ?」

「都に?」

「そう。――でも、今のあの子は、貴方から突き放されたと感じてしまっていて、心のよりどころがないの」

「そんなことはないだろ」


 断言してもいい。

 俺みたいなやつが、都の傍にいても何一つ良い事はないと。

 だが、静香さんは頭を左右に振り、俺の言葉を否定してくる。


「優斗君は、神の力を手に入れたことで俯瞰的に物事を見るようになってしまったの? それとも他に原因があるのかしら?」

「……」


 思わず無言になる。

 どうして、そんな無意味で何の関係性もないことを聞いてくるのかと。

 ただ、俺が神の力を手に入れたと嘘の情報――、それに静香さんは何か思うところがあるようだ。

 それが俯瞰的に物事を見るという言葉に繋がっているのなら、それは強ち間違ってはいない。

 戦場において物事を第三者の視点から、冷静に判断することは何よりも大事だからだ。


「話せないということかしら?」


 思わず無言になった俺をどう思っているのかは分からないが、俺が何かしらの誓約を受けているのかと誤解するような発言を静香さんはしてきた。

 だが、俺が異世界で戦ってきたという事実は、都や身内は知っているが、それが、どういうモノだったのかまでは詳しくは話してはいない。

 下手に口にするようなモノなら本当の事実に行き着く可能性だってある。

 だからこそ、余計なことを口にするわけにはいかない。


「そう……だな……」


 ぶっきらぼうに答える。


「そう……なのね……」


 深く溜息をつく静香さん。


「何か事情があるという事は、娘から話しを聞いて薄々と感じてはいたわ。でも……」


 そこで、泣きそうな表情を俺に彼女は向けてくる。

 どうして、俺の話を聞いただけで、そんな表情を向けてくる? 理解ができない。

 どうもばつが悪い。

 俺は席から立ち上がる。


「どこにいくの?」

「今日は帰る」


 何故か落ち着かない。

 理由は分からない。

 だが――、


「娘に会いに来たのでしょう?」

「それは……」


 静香さんの言葉に、俺は自分でも理解できないほど言い淀む。

 瞬時に言葉を返せないなどあってはならない。

 それは生き死にが関わる場面において死を意味するからだ。


「優斗君」


 静香さんが強い口調で俺の手を掴むと、扉に向かって歩き出す。

 そして、彼女が扉を開ける。


「――きゃっ!」


 思わず、彼女が叫ぶ。

 彼女の視界――、扉を開けた通路には――、扉の外には8人の男達が倒れていたから。4人は10代後半から20代中ごろ。

 もう4人は40代から50代の男が床の上に倒れていた、

 その光景を見た静香さんが、一瞬、俺の手を握っていた手に力を入れたあと――、深く深呼吸をしたあと俺へと視線を向けてくる。


「こ、これって……」

「何のことか分からないな」


 とりあえず誤魔化すことにした。 

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