第679話 葬儀(7)
俺が頷いたことに、静香さんは小さく溜息をつく。
「それなら……、どうして、そのことを娘には言わなかったの? 説明しなかったの?」
真っ直ぐに俺を見ながら静香さんは、そう口にする。
俺は思わず首を傾げてしまう。
生き返らすことが出来なかったのだ。
その過程を伝える意味を俺は感じなかったから。
「生き返らすことは出来なかった。その事実が――、それが全てだ。だから、過程を説明したところで、事実は――、現実は何も変わらない」
そう――、結果は何も変わっていない。
人が死んだだけのことだ。
死体は死体のままであり、どんなに綺麗にしたところで、それは死体以外の何物でもない。
だからこそ――、
「だから、娘には死ねば肉の塊だと伝えたの?」
「ああ。生物というのは死ねば究極的にはタンパク質の塊に過ぎないからな」
俺は、自論を述べる。
すると、彼女は――、神楽坂都の母親である静香さんは眉根を落として悲しそうな表情を俺へと向けてくる。
「それは神の力を手にいれた――、神の視点からの考えなのかしら?」
「どうだろうな」
俺は、肩を竦めて答える。
「ねえ……。優斗君は、もし娘に何かあったら悲しいかしら?」
「都に……か……」
そう問われて俺は――、俺の脳裏に一つの光景が思い浮かぶ。
それは――、
――ねえ? 優斗。優斗は、私のことを守ってくれる?
一瞬、その言葉――、その言葉を語った時の寂しそうな表情をした都の表情が――、異世界で――、召喚された世界で――、その城に滞在していた時に、聞かれた言葉が脳裏にフラッシュバックした。
思わず額に手を当てる俺。
「――だ、大丈夫? 優斗君」
「ああ。問題ない……」
――そう、何も問題はない。
俺は誓ったはずだ。
あの時――、都を――、目の前で都を殺されたときに――、彼女を何としてでも、自分の全身全霊を――、全てを賭してでも……。
そこまで思考したところで――、
「そうは見えないわ……。どうして、そんな辛そうな表情をするのかしら?」
その言葉に思わず歯ぎしりする。
その理由は知っている。
その理由は理解している。
その理由は分かっている。
だが……。
「ああ。そうか……。――いや、何でもない」
途中まで自問自答したところで、俺は口を開く。
「たぶん、後悔をしていると思う」
「――え? 後悔を……している? 娘に、何かあった時に?」
そう問いかけられた言葉に俺はコクリと頷いた。
「そう……」
続けて目をスッと細めた静香さんが、肯定とも否定とも言えない言葉を返してきた。
「優斗君」
「……」
「娘に、貴方が修二さんの身体を修復したということを伝えていいかしら?」
「言っても意味はないだろう? 生き返らないんだから」
どうして、そんな無意味なことをするのか俺には理解が出来ない。
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