第678話 葬儀(6)

 神楽坂邸内に案内されたところで、駆け寄ってくる人影が見えた。


「優斗くん!」


 俺の腕を掴んで、矢継ぎ早に口を開く静香さん。


「ちょっと話したい事があるから来てくれるかしら?」

「いいですが……」


 静香さんに手を引かれるようにようにして、玄関近くの客間へと連れて行かれた。

 その際に、俺は案内してくれた警備の男に手を上げて労いを向けた。

 部屋へと入ったところで、俺は静香さんに勧められたソファーに座る。


「ごめんなさいね。いきなり――」


 対面に座った静香さんが、頭を下げてくる。

 それにしても、静香さんはいつも通りのようだ。

 どうやら、修二さんが死んだ事については、気持ちの整理はついているようだ。

 それにしても……、俺は視線を俺たちが入ってきた扉へと向ける。

 扉の外には、8人の人間が聞き耳を立てている。

 波動結界で確認したが、俺が知っている人間は誰一人として存在していない。

 とりあえず波動結界に人を気絶させる程度の力を籠める。

 それにより、外で聞き耳を立てていた人間達が全員倒れる。


 ――さて、これで問題ないな。


「いえ。とくには気にしてないので」

「そう……。優斗くん」

「何でしょうか?」

「夫の身体を治療してくれたことを感謝しているわ」

「何のことか――」

「気にしなくていいわ。私だって、常識はあるわ」

「……」


 俺は無言になる。

 彼女が、どこまで現状を理解しているのか分からないからだ。


「センチュリータワービルで起きた爆発事故」


 そう静香さんが話を切り出してきた。


「……」

「優斗くん。爆破テロが起きた場所――、火災が起きて死んだ場合、死体というのは、どこかしら悲惨な欠損や、死体特有の何かしらの傷があるものなの」

「……それは経験からですか?」

「ええ。湾岸戦争の引き金になった世界貿易センタービル爆破を知っているかしら?」

「……」

「私は、その時に神楽坂グループの仕事で、ニューヨークに滞在していたの」

「……つまり、その時に起きた事件で死体の損傷具合を知っていると?」

「そうなるわね」

「……そうですか。――で、俺が修二さんの身体を修復したと考えているんですか?」

「ええ。それに、そのことに関して知り合いの中央警察署の方からも裏取りは出来ているもの」


 大丈夫か? 日本の警察の情報統制能力。

 心配になってくるんだが……。

 まぁ、俺が聖女だということも都の母親は知っているからな。

 別に隠す必要もないか。


「はぁ……仕方ないな……」

「それなら、本当なのね?」

「まぁ、とりあえず生き返らそうとしたが……」

「できなかったということなのね?」


 俺は静かに頷く。



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