第677話 葬儀(5)
神楽坂邸内を歩くこと数十秒、数人の男達が俺の元へと駆け寄ってきた。
誰もがグレーとブラックのスーツを着ている。
「この少年か? 連絡のあった――」
「そのようだ。他には、姿がないからな」
男達は、会話をしながら俺の行く手を邪魔するように立ち塞がる。
「君、こんな夜更けにどういうつもりで敷地内に入ったかは知らないが、ここは神楽坂グループの総帥の邸宅だ。君のような子供が来る場所ではない。すぐに立ち去りたまえ」
――さて、どうしたものか……。
都には許可はとってないからな。
まぁ、ここでゴタゴタを起こしても意味はない。
「俺の名前は桂木優斗と言う。静香さんに取り次いでもらいたい」
「静香さん?」
一人のダークスーツの男が、近くに立っていたスーツ姿の男達と顔を見合わせる。
「君は、一体――」
どう反応していいか戸惑っているようだった。
「――と、とにかく! 年齢からしても見た目からも10代半ばと言ったところだろう? どう見ても、学生――、都お嬢様と同じ――、同学年と視た方がいい。それなら、こんな時間帯に来るのは、控えてもらいたい。今は、どういう状況なのか、君は理解していないと思うが、ご学友であったとしても、しばらくは――」
「ああ。なるほど……。そっちの勘違いをしたのか……」
俺は懐から警察手帳を取り出す。
「千葉県警の桂木優斗警視監だ。今回、発生した神楽坂修二死亡事件について、ご遺族の神楽坂静香氏に対して直接話したい事があって馳せ参じた次第だ。早急な取次を頼めるだろうか?」
俺の言葉にザワッと、スーツ姿の男達から、疑惑の視線が一斉に向けられる。
「――警視監? 何の冗談だ?」
俺に最初に話しかけてきたスーツ姿の男が声をワントーン落として語り掛けてくる。
――おっと! 逆に疑われる感じになったか……。
まぁ、身分的に俺の年齢で警視監と言われたら逆に警戒するか。
まったく身分が高いのも問題があるな。
「そのままの意味だ。このまま通せば、問題ないし、もし邪魔をするようなら公務執行妨害という事で屋敷の主に迷惑が掛かることになるがどうする?」
俺は、警察手帳を男へ放り投げて渡す。
受け取った男は、俺の警察手帳をマジマジと見ると――、
「どうだ?」
――という、他のスーツ姿の男に問いかけに対して頭を左右に振ると、俺の警察手帳を渡した。
どうやら、判断がつかないようだ。
そして、俺の警察手帳を手渡された男は、ライトで警察手帳を見た結果、眉間に皺を寄せる。
「こ、これは……本物だ……」
「――で、ですが! こんな少年が!?」
「だが、これは本物だ。少し待っていてくれ」
警察手帳を受け取った男は、どこかへと電話をして数分会話をしたところで、顔色を青くする。
「――あ、はい。――わ、分かりました」
「どうですか? 主任」
「本物の警察手帳だった。警察庁長官より、絶対に手を出すなと厳命された。他の警備会社の人間にも連絡を入れておけ」
「――え? どういう……」
「いいから! 死にたくなければ言われたとおりにしろ!」
叫んだ男が、俺に警察手帳を返してくる。
受け取る。
「桂木警視監。警察庁長官より、穏便にことを勧めて欲しいとのことです」
その言葉に俺は肩を竦める。
「そうか。それよりも警察庁長官にコンタクトが取れるのか?」
「はい。神楽坂グループ警備部門の責任者になる前には、関東管区警察局に所属していましたので」
「ほう……。それは、話がスムーズに進んで助かった」
俺は警察手帳を懐に入れた。
「――では、桂木警視監。ご案内します」
「ああ。よろしく頼む」
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