第671話 抑止力(4) 第三者Side

「――さて、その娘については妾は預かろう」

「預かる?」

「妾は、その娘の守護をご主人様から命じられているからのう」


 白亜が、純也に近づこうとしたところで――、純也が口を開く。


「いい。俺が連れていく。それより聞きたい」

「なんじゃ?」

「どうして、アンタが都の守護をしているんだ? どうして、優斗本人が、都を守っていないんだ? そんなの、どう考えてもおかしいだろ? それとも優斗は、都のことを何とも思っていないのか?」

「なるほど……。そう、受け取るのか……」


 足を止めた白亜は、都を抱きしめている純也を見下ろすと、口を開きかけるが――、


「白亜。この少年は、大事な者を失ったことがない。だから――」


 横から桔梗が口を挟む。

 

「どういうことだよ! 桔梗さん」

「私もよくは分からないが、桂木優斗が、その娘を直接護衛していないという事は何かしらの原因があると思っている」

「原因?」

「うむ。その理由は分からないがな……」

「分からないのかよ……。――なら、何で分かるんだ? 優斗が、直接、護衛していない事に理由があるって」

「そうだな……。私が戦国時代に生きていたという事は、お主に伝えたか?」

「まぁ、簡単には――」

「あの頃は、今の上辺だけでも平和な世と違って死と言うのは、本当にありふれたモノだった。大切な者、大事な者を守りたくても守れない時代であった。そんな中で、本当に大切な者を失ってしまった場合、人というのはどうなるのか純也、お主は分かるか?」

「……大事な人を……失う?」


 純也は、声に出しながらも釈然としない思いが胸中にあった。

 それは平和な世界――、平和な時代――、仮初であっても死という概念が遠く隔離された日本という特別な甘く温く、そして軍事から程遠く隔離された国民性の発露にあった。


「ピンと来ないようだな? 純也よ」

「だって! そんなのありえないだろ! 優斗が、大切な人を失った可能性があるなんて! それだったら、俺や都にいの一番に教えてくれていてもおかしくないだろ!」


 平和な日本で暮らしてきた純也にとって、戦国時代から明治維新の間に起きた飢饉による大量の死者発生などは遠い夢物語にすぎない。

 何故なら、動物の死からも人は隔離されていたから。

 

「……純也」


 まるで駄々をこねる子供を見るように桔梗は純也を見つめる。


「優斗は――、優斗は、そんなことを一言も俺たちに言ってないんだぜ! なのに、そんなことありえないだろ! 大事な人を失ったって! そんなの桔梗さんの思い込みだろ! だって! そんなことはありえるわけが……」


 純也自身、自身の言葉がループしている事に気が付かないまま、自分自身を納得させるように言葉を呟く。


「小童、お前の尺度で他人の人生経験を語るではないぞ?」


 そんな純也の姿に見かねた白亜が口を開く。




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