第672話 抑止力(5) 第三者Side

「何だよ! 俺が何も知らないような言い方をして!」


 白亜のあまりのいい分に純也は苛立ちを隠すこともなく、詰め寄るかのように言葉を口にするが、そんな純也を見下ろしたまま白亜は言葉を続ける。


「少なくとも妾は、お前の10倍以上は生きておる。だから、何となくじゃが、分かるのだ。大切な者を失った人間――、いや意思ある者の立ち振る舞いというのがな」

「じゃあ、なんだよ! 優斗は、そういう人が居て、俺たちに黙っているっていうのかよ!」

「そうなるのう」


 純也の言葉に――、断定するかのように白亜は頷く。


「純也」

「桔梗さん?」

「この者が語っている言葉は、あくまでも、この者が、自身の体験から感じた内容を口にしているに過ぎない。だから、それが真実とは限らない。そこは念頭に置く必要がある」


 横で白亜と純也のやり取りを聞いていた桔梗は、白亜と純也の間に割って入ると、そう純也を諭すように言葉をかけた。


「随分と甘い……」

「元・妖怪の貴様と一緒にされても困る」

「そういえば、半神でも元は人間だったのう。お主は」

「ふん! 貴様が、優斗と繋がりが無ければ払っておったところだ」


 一瞬、白亜と桔梗の間に剣呑とした雰囲気が流れる。


「やめじゃ」


溜息と共に白亜は桔梗から、視線を白亜の後ろに隠れている純也へと向ける。


「小童。貴様は、その娘を、きちんと守ることじゃ」

「そんなことを言われなくても!」

「言わんと分からんじゃろう? 何かを守るという事は何かを切り捨てる必要があるということを」

「俺は、全てを守ってみせる!」

「ふん。大言壮語も甚だしい。せいぜい頑張ってみることじゃな。その幻想――、夢が現実の前に崩れる様を味わうまで」

「なんだと? 一体、お前に――」

 

 純也が最後まで語る前に、その場から白亜の姿が掻き消える。


「消えた?」

「天狐の神通力の一つだ」

「桔梗さん?」

「純也。アヤツの言っていたことは強ち間違ってはいない……、そのことは分かるか?」

「……」

「分かっているのならいい。それよりも、その娘を自宅まで連れていうのが先決ではないか?」

「分かった」


 憤りを覚えていた純也であったが、自身の腕の中で意識を失っている都を見て、冷静さを取り戻したあとスマートフォンを取り出しタクシーを呼び、神社をあとにする。

 その後ろ姿を見送ったあと桔梗は夜空を見上げる。


「まったく、天狐まで手懐けているとは、恐れ入った。それに――、あの襲撃者たち……。今の純也では自身の身を守ることも容易ではないか……」


 そう桔梗は結論付けると共に深く溜息をついた。





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