第670話 抑止力(3) 第三者Side
「――な、なんだ? あれは……敵なの……か?」
純也は、意識を失っている神楽坂都を抱き寄せながら呟く。
「いや、あれは敵ではないな……。殺気を感じない。それに、何より……纏っている気配が……」
「桔梗さん?」
「何でもない。それよりも――」
そう呟きかけた桔梗は、口まで出かけた言葉を呑み込む。
そうしている内に、二人の前に白亜が降りてくると静かに石畳の上に着地する。
「貴様からは、桂木優斗の力を感じるが……一体、何者だ?」
白亜が、そこで首を傾げた。
「さすがは神の力を少しでも取り込んで半神に近い存在になっているだけはある」
そう白亜は呟くが――、
「優斗の力? どういうことだ? 一体、アンタは何者なんだ?」
「その娘に妖力がまとわりついていると思っておったが、それはお主のモノだったのか?」
純也の白亜へと問いかけに被せるようにして桔梗が白亜に向かって言葉を投げかける。
「そうなるのう。それよりも……、まったく――」
白亜は溜息をつくと、純也の方を見と口を開く。
「どうして、一般人を闇の住民に接触させるような真似をした?」
「何のことだ!?」
純也が叫ぶ。
まるで批難されているように彼は感じたからだが、その純也の様子から、肩を落とした白亜は桔梗の方へと視線を向けた。
「お主なら、妾の言っていることは理解できるであろう? 元・出雲大社の退魔巫女であるお主なら」
「……それは……」
「まさか、何の力も有していない普通の人間を、我々のような闇の住民と交流を持たせるような真似をするなぞ妾も流石に驚いたぞ? 妾の主が、神楽坂都に、闇の住民と交流を持たせるようにと言ったか?」
「言っては……ない……」
「――で、あろう? ならば、意識を失わせて守るのがベストな選択だという事が何故に分からぬ? まして、あのような襲撃者を見せるなぞもっての他ではないのか?」
「あんたは一体、何なんだ!? 桔梗さんは、俺たちを守るために、理由を聞くために、対策を練るために、ここに――」
「黙れっ! 小童。一般人に闇の住民の恐怖を植え付けたという認識すら出来ないどころか、戦士としても何の覚悟も出来ていない未熟者が」
「――ッ!?」
白亜の気迫に純也が息を呑む。
「そう言ってやるな。この者は、まだ発展途上だ」
白亜の視線を遮るように桔梗が動くと、純也と都を、その背に隠す。
「桔梗さん!」
「今は、黙っていろ。純也」
「くっ」
桔梗の言葉に唇を噛みしめる純也。
「――で、九尾」
白亜の方を見たあと、白亜に向けて、桔梗は話しかけた。
「白亜でよい」
「――では白亜。貴女は、桂木優斗とは、どのような関係なのだ?」
「桂木優斗は、妾のご主人様であり、妾の神である」
「……つまり、それだけの力は――」
「そう。ご主人様から零れ落ちた力により、妾は力を手にいれたと同時に、神楽坂都の守護を任されておる。だからこそ、その娘を寝かせた」
「――寝かせたって……やりすぎじゃねーのかよ!」
「小童、その娘は肉親を失ったのであろう? ならば、いまはそれ以外のことを考えさせるべきではない。人間というのは、簡単に闇に堕ちるからのう」
「何を言って……」
「お主も見たのであろう? その娘の表情を――」
「――ッ!」
純也の表情が変わる。
先ほど、純也は見たばかりだったからだ。
都の――、様々な感情で歪んだ顔を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます