第669話 抑止力(2) 第三者Side

「優斗に、また助けられたって……ことか……?」


 唇を噛みしめる純也を他所に、都が一歩前へと歩み出る。


「――あ、あの! お父様を殺したのって……」


 都の、その言葉にハッ! と、する純也。

 言わずもがな――、純也か都。もしくは、その関係者を安倍晴明だと思っていたのならと考えたのなら、すぐに、その答えに行きつくのは当然とも言えたが――、


「言ったであろう? 桂木優斗の力は抑止力になると」

「――だ、だが! 優斗の存在に気が付かなければ――!」

 

 桔梗の言葉を否定するかのように純也は声をあげる。


「桂木優斗と言う人間を二人は知っているはずだ。奴は敵対した者には容赦はしないということを」

「――え? ど、どういうことなの? 優斗が、容赦しないって、どういうことなの?」


 都は、桔梗が思っていた桂木優斗と言う人間性を聞いて思わず首を振っていた。

 そんな様子に、桔梗は一瞬、目を見開いたかと思うと小さく誰にも聞かれないように「そういうことか」と呟くと、


「純也。本日の会話は、ここまでとしておこうか」

「なんだよ! 全部、話してくれるんじゃないのかよ!」

「少し問題が起きた。それよりも、そっちの娘は親族が無くなっているのであろう? ならば、今日明日にも葬儀があるはず。余計なことに思考を使うのは宜しくない……、それはお主でも分かるな? 純也」

「――ッ。 ――な、なら! 都を送り迎えしたあとなら教えてくれるのか?」

「そうじゃな」

「待ってよ! 純也! どうして! 私だけ仲間外れになるのよ! さっきの連中も、お父様のことも、全部、繋がっているんでしょう? だったら、私にも関係のあることじゃないの!」

「都……」

「純也だって分かっているはずよね! お父様が、誰に殺された私が知りたいって!」

「そ、それは……そうだが……」

「――それなら少しでも! どんな些細なことでもいいの! 情報が欲しいの!」

「……」


 何とも言えない表情をする純也。

 彼の目の前には、縋りつくようにして、自身の肉親を殺した相手を探そうともがいている幼馴染の姿があった。

 

「どうしてよ! 何で答えてくれないのよ! お父様が、殺されたのよ! こ、こんな! こんなわけのわからない事に巻き込まれて! 意味が分からないわ!」

「――とりあえず落ち着け。都」

「落ち着けって……。私は落ち着いているわ!」


 純也の腕を振りほどき数歩下がる都は俯く。


「私は落ち着いているわ……」


 寄る辺を持たない都の姿に純也はかける言葉を失い無言で見つめるだけ。

 そして純也が見ている中で、ゆっくりと都は前のめりに倒れる。

完全に地面に倒れ込む前に、慌てて純也は都の倒れかけた体を支えた。


「――一体、何が? 貧血か?」


 そう答えを出したところで――、


「まったく余計なことをしてくれるものだ」


 そう桔梗は呟く。

 そして二人を見ていた桔梗は空を見上げた。

 そこには9本の狐の尾を持った白銀の天狐――、白亜が浮いていた。



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