第668話 抑止力(1) 第三者Side

「桔梗さん!」

「純也、無事であったか?」


 シュド=メルが撤退し、しばらくしてから寒川神社にて、都と一緒に桔梗と合流した純也は、桔梗の傍に立っている年配の男女を見ながら眉間に皺を寄せた。


「彼らは?」

「ここ寒川神社の神主だ」

「そう……なんですか……」


 襲われた純也にとって、自分と都――、そして桔梗以外の人間が近くにいたことに、驚いていた。

 だからこそ、近くに戦う力を持たない人がいたことに気が付いて曖昧な言葉を発する形となってしまっていた。


「うむ。――では、神社庁には、そのように説明しておいてくれ」

「分かりました。それでは、退魔師様もお気をつけてください」

「分かっておる。それよりも結界の修復は早めにな」

「はい。後程、直しておきます」

「――では、純也行くぞ」


 桔梗は、純也と都の肩を軽く叩き神社の外へと向かう。

 そのあと、純也は都の腕を掴んだまま歩き追う。


「桔梗さん。一体、どうなっているんだ? あいつらは一体、何者なんだ? どうしてこちらを観察してきただけで消えたんだ?」

「ここで話すことではない。それよりも付いて参れ」

「……分かった」


 桔梗とある程度、付き合いのあった純也は桔梗の物言いに、これ以上は何の答えも返ってこないと思い仕方なく頷くと、桔梗の後を追うために一歩踏み出すが――、その腕を引っ張ったのは都であった。


「ねえ……。純也」

「どうした? 都」

「一体、何がどうなっているの? 純也は、少しは知っているみたいだけど、わたし……何が起きているのか全然わからないわ!」

「そのへんも含めて、桔梗さんが教えてくれると思う」

「本当に?」

「ああ。たぶん……」


 神楽坂都は、少し考えたあと、唇を噛みしめると、純也と共に桔梗のあとを追いかける。

 そして到着した場所は、寒川神社から海岸方面へと向かった場所。

 百台以上、車が停められる大きな駐車場で桔梗は足を止めたところで、付いてきていた都と純也に視線を向ける。


「桔梗さん。それで教えてもらえるんだろうな? あいつらが何者かって」

「妾も全てを知っているわけではない。まずは、それを念頭に置いて聞いてくれ」


 桔梗の、その言葉に純也と都が頷く。

 それを確認したあと桔梗は口を開く。


「まず知り得た情報からじゃが、あ奴らの言動から分かることは安倍晴明を探しているということだな」

「安倍晴明を探している?」

「あの! 安倍晴明って、あの陰陽師で有名な人ですか!?」

 

 純也と都が、それぞれ違った反応を見せる。

 理由は簡単で、純也は安倍晴明が使役した式神と契約を結んでいるから。

 そして都は、安倍晴明という存在に関しては距離感があり懐疑的であったからであった。


「うむ。その安倍晴明じゃな。あやつらは随分と安倍晴明を恨んでいるようだ」

「つまり、安倍晴明と何かしらの因果関係があるってことか?」

「そうなるな」


 純也の言葉を肯定する桔梗。


「だけど、それなら、どうしてアイツらは俺に攻撃してこなかったんだ?」

「お前が安倍晴明の転生体だとは納得できなかったからだな。それになにより、あいつらは、桂木優斗と敵対することを何よりも恐れている節があった」

「優斗に?」

「うむ。お主は、まだ理解しておらぬようじゃが、絶大なる力というのは振るわなくても、所持しているだけで抑止力となる。つまり、いま、私達が、この場に生きていられるのは桂木優斗のおかげとも言える」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る