第666話 来訪者の追撃(4)第三者Side
唐突の――、あまりにも予想していなかった埒外の言動に、桔梗は眉を一瞬動かすと、自身の鱗で防御していた巨大な斧を弾いたあと距離を取り口を開く。
「何を言っているのか分からないな」
そう、突き放すような言葉を彼女は選択しつつも相手の出方を見る。
桔梗としては、現状が理解できずにいた。
目の前に存在している人間とは思えないほどの力を有している少女。
少女の身長は140センチにも満たない。
だが、そんな少女は重さ1トンもある巨大な斧を片手で易々と振り回している。
それが、どれだけ異常な状態であるのかくらい桔梗は理解していた。
「そう――。でも、貴女……。桂木優斗という存在と知り合いなのよね?」
シュド=メルは、目の前に距離を取って臨戦態勢を崩さない桔梗に向けて語り掛けた。
「か、桂木優斗……だと?」
「知り合いじゃないのかしら?」
「おかしいわね……。同胞の情報からだと、貴女って桂木優斗と会っていたって聞いたのだけれど……」
3メートルほどの巨大な戦斧を片手で振り回しながら、桔梗から目を逸らしつつ考え込む少女シュド=メル。
彼女は、一瞬思考したあと、
「ねえ? 今、逃げて行った娘って、安倍晴明?」
「だから、何を言って――」
目の前の少女が、どんな答えを求めているのか思考している中で、桔梗は跳躍する。
すると、先ほどまで桔梗が立っていた場所をシュド=メルが横薙ぎに振るった戦斧が、とんでもない速度で通り過ぎる。
「――ッ!」
「答えないならいいわ」
そう桔梗に話しかけながらも、横薙ぎに振るった戦斧を直角にすると掬い上げるようにして振り上げる。
振り上げられた戦斧は、跳躍していた桔梗を完全に捉えており、またしても金属音がぶつかり合う音と共に、今度は桔梗の身体が上空へと跳ね飛ばされた。
「へえ? これも防御するんだ……。すごいわね……。――でも!」
石畳の上に立っていたシュド=メルの姿が消える。
そして、瞬く間に、上空へと弾き飛ばされた桔梗の真上に移動すると、体を縦に回転させたあと、桔梗の胴体に向けて3メートル近くの戦斧を振り下ろす。
戦斧は、桔梗が体の表面に出現させた鱗を両断し、胴体を真っ二つにする。
「少し力を入れ過ぎたかしら?」
胴体を真っ二つにされた桔梗の上半身と下半身は、それぞれ神社の境内に落下すると、ドサッ、ドサッと言う重苦しい音を周囲に響き渡らせて落ちた。
それから遅れて、軽い音と共に、シュド=メルが境内の石畳に降り立つ。
「――さて、これで力の差は分かったでしょう? 素直に答えてくれるのなら、その体を治してあげてもいいわよ?」
「……だから、なんの話を――」
「そういうのはいいわ。貴女って、桂木優斗という存在と知り合いなのよね?」
「……」
「無言は否定と取るけど、いいのかしら? 貴女の返答次第では、さっき逃げた人間を殺すのもやぶさかではないのだけれど……」
「分かった……。桂木優斗とは知り合いだ」
「つまり、あの娘も?」
コクリと頷く桔梗に満足そうな表情をするシュド=メル。
「ふーん。そう……。でも、分からないわね……。――その割には、安倍晴明の気配をまったく感じなかったのよね……」
シュド=メルからは、敵愾心、殺気のようなモノが嘘のように消えた。
それどころか、彼女は戦斧すら消す。
「まぁ、いいわ。本当は、あの娘を殺すことが目的の一つでもあったのだけれど、少し事情も変わったし……」
「何を言っている?」
「へえ? 自分で体を治せるのね? それって妖怪の力かしら? それとも別の力?」
シュド=メルの意識が桔梗から離れた瞬間、自身の身体の一部を水と化して、少女の斬撃をまともに喰らったフリをして有益な情報を得ようとした桔梗の試みは功を奏していた。
「まぁ、いいわ。桂木優斗に伝えて頂戴。私達は、桂木優斗を同胞として迎い入れる用意があると」
そのシュド=メルの言葉に、桔梗が笑う。
「何がおかしいのかしら?」
「お前たちは、アレがどういう存在なのか理解していないようだから、笑ってしまったのだ」
桔梗は体を再生させると立ち上がりながら、そう言葉を口にするが――、
「存在? あなたたちこそ何も理解してないわね。あれが人間にとっては、私達と同じくらい危険だということを」
「お前たちと同じだと?」
「そう。――でも、貴女と議論するつもりはないわ。――でも、安心してほしいわ」
「何を安心しろと?」
「趣旨が変わったの。アレと知己の仲であるのなら、あなたたちを殺したら、桂木優斗と戦闘になるもの。私達としては――、アザートス様は、それを求めていないわ。それに、どう見ても、あの娘は安倍晴明の転生体ではないもの。そんな気配はないし……でも……」
そこでシュド=メルは、内心では違和感を覚えていた。
それは一瞬見た神楽坂都という存在の中には、安倍晴明特有の力が存在はしていなかったが別のナニカが見えたことに。
ただ、それを彼女は理解できなかった。
「(まぁ、いいわ。別に関係のないことでしょうし)」
そう彼女は、結論付けると――、
「――でも?」
「何でもないわ。とにかく我々は、あなたたちと敵対する意思はない。そう、桂木優斗に伝えておいてくれればいいから」
シュド=メルは、石畳を蹴ると数十メートルの高さまで移動し、桔梗を見下ろす。
「いい答えを期待していると――、桂木優斗には伝えておいて欲しいわ。それでは、失礼するわ」
シュド=メルは、上空から桔梗を見下ろしつつ、数十人の眷属を連れて姿を消した。
そのころ、海岸に都の腕を引っ張りながら走っていた純也は、上空から追ってくるだけで何の手出しもしなかった存在が、いきなり消えたことに驚き、足を止めていた。
「消えた? どうなっているんだ?」
先ほどまで、引き離そうとして引き離せなかった存在が唐突に消えたことに、純也も何が起きたか分からないと言った表情をした。
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