第665話 来訪者の追撃(3)第三者Side

 シュド=メルの、あまりな優雅な自己紹介に、桔梗を抜かした都と純也が纏っていた空気が一瞬弛緩しそうになるが――、


「気を緩めるな! 純也!」


 すぐに現状を察した桔梗の叱咤激励が寒川神社内に響き渡ると同時に、道路と反対側の――、神社を管理している神主が住んでいるであろう建物に灯りが灯る。

 それを見て、桔梗は小さく舌打ちをする。

 

「桔梗さん?」

「純也、結界に綻びが生じた際に感じた衝撃をお主は感じたな?」


 桔梗は、目の前のシュド=メルを睨みつけながらも、背後に純也と神楽坂都を隠すような立ち位置をしながら、後方で立っている純也に話しかけた。


「あ。ああ……」

「多少の力を有していれば誰でも感じ取れる代物だということを、まずは理解しろ。そして、それは神主であれば感じ取れるモノだ。何せ、この地を守護する神を奉っている神社を管理しておるのじゃからな」

「それよりも、アレは一体……」


 桔梗からの会話を半分ほど流しながら、純也は、思ったことを口にする。

 目の前に立っている中学生くらいの少女。

 その姿は、美少女と言った感じであったが、純也は体の奥底から湧き出す恐怖を隠せずにいたからだ。

 口から――、言葉に出すことで何とかしようと、純也はしていた。


「よく聞け。ここで、アレらとまともに戦えば、ここら付近でどのくらいの被害が出るのか想像もつかん。お前は、都を連れて、この場から浜辺へと移動するのだ」

「浜辺? どうして?」

「決まっておろう。被害を出さないためだ!」

「それなら桔梗さんは――」

「私はアレの相手をして時間を稼がねばならない」

 

 桔梗は、シュド=メルの方を睨みつけたまま、少女の一挙手一投足を注視していたが、シュド=メルと名乗った少女は、3メートルもある漆黒の鎌を一回転させると、周囲を見渡す。

 そして、口を開く。


「何の話をするのかと気になって聞いていれば、逃げる算段の会話なんて――、本当に1000年前の陰陽師と比べて力が衰えているのね?」


 少女は、目を細めて、そう口にした瞬間、その姿が掻き消える。

それと同時に金属同士がぶつかりあう音が周囲に響き渡り、闇夜の中で赤い火花が散る。


「あの距離を一瞬で――」

「そういう貴女も、反応できるなんてすごいわ。少し驚いたわ」


少女と桔梗の間には20メートルほどの距離があった。

それを瞬きも許さない間に詰め寄った少女の斧の一撃を桔梗は硬質化した蛇の鱗で――、右手で受けていた。


――ギギギッギッと、耳障りな金属が擦れ合う音が周囲に響き渡る中で――、


「純也! 神楽坂都を連れて港の方に向かうのだ! なるべく遮蔽物があるほうに!」

「――ッ!」


 一瞬の攻防。

 その様子を見ていた純也は、目の前で起きた戦闘を見て歯ぎしりをする。

 彼には、一瞬の攻防で理解できてしまっていた。

 目の前で、こちらを殺すと宣言してきた存在は美少女の姿こそしていたが、中身は化け物だということに。

 自分が、戦いの場に居ても戦力どころか足手まといにしかならないことに。


「――で、でも! 他にも!」


 上空には、静観を決めつけているように動かない存在が、空中に浮かんでいた。

 それらを見て純也は叫ぶが――、


「いいから!」


 桔梗の叫びに純也は、仕方なく都の腕を掴むと走り出す。

 その純也を一切、追いかける素振りすらせずに、少女は横を通り過ぎる純也と都へ一瞬流し目を送ったあと、目の前の桔梗へと視線を向けた。


「ねえ?」


 そして、少女は口を開く。


「あの娘って、本当に安倍晴明の転生体なの?」


 シュド=メルは、笑みを浮かべると桔梗に尋ねた。

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