第664話 来訪者の追撃(2)第三者Side
「それは……」
「二人とも、勘違いしておるようだから、ハッキリと此処で伝えておく。この世界を作ったと日本神話でも語られている伊邪那岐が、死者を蘇らせることが出来なかったように、本来であるのなら、どんな事があろうと生物を生き返らせることが出来ないのが自然の法則なのだ。お主らは、近しい人間が、その法則を凌駕できる力を有している故に、死と言う概念を軽く考えているのではないのか?」
「そんなことはない!」
純也が、桔梗の言葉を否定するかのように反応する。
「本当にそうか? ――ならば、何故に桂木優斗に死者を生き返らせて欲しいと懇願する? 娘も、その辺は、どう考えておるのだ?」
「――で、でも……、お父様は……優斗は……」
「そう。あれは異常だ。自然の法を捻じ曲げてしまうのじゃからの。だが、それでも出来ないことはあるのだろう。その時に、亡くなった者を何時までも想って生きることは自らのためになるのか?」
桔梗は、二人を見ながら言葉を続ける。
純也と、都は、どう答えていいのか自身の中で消化しきれない中で、閉口したままで――、
「本来であるのなら、死を覆すことは神ですらありえない。それは最高神ですら不可能だったこと」
「待ってくれ、桔梗さん」
「何じゃ?」
「日本神話だと伊邪那美命は、生き返ることも出来たんじゃないのか? そういう記述が日本神話にあったよな?」
「純也。おかしいと思わぬのか? 本当に、死者を黄泉の国から生き返らせられることが出来たとしたら、どうして後ろを振り向いては行けないという条件付けを行った?」
「そ、それは……」
「本来、生死を司り生き返ることも出来るのであったのなら、どんな条件下に置かれていたとしても、それを無視して生き返ることができる。それが出来るのが黄泉の国の王の力ではないのか?」
桔梗の言葉に、純也が眉間に皺を寄せるとハッ! と、したような表情をして口を開く。
「つまり、黄泉の国には伊邪那美命よりも上の死を司る神が存在しているってことか?」
「それは分からん。だが、伊邪那美命と伊邪那岐命に条件付けを行ったのは――、条件付けをしたのは、その者だと私は思っておる」
「……ということは、それすらも無視して死者を生き返らせることが出来る優斗は……」
純也は、そこで親友であり友人の桂木優斗の異常性に気が付く。
「ようやく理解したか。私も薄々とおかしいと思っておったのだが、あの者――、桂木優斗の力は、巧妙に隠してはいるが、人の力を人の身という形に押し固めている歪な力であり、それは人の力の極限にして極致と思っておる」
「人の力の極限?」
桔梗の言葉に、純也は呆然と呟く。
「――あ、あの! 桔梗さん」
「どうした? 娘よ」
「桔梗さんは、まるで優斗を擁護するような発言ばかりしていて、私には理解できません」
「そうであろうな。お前たち、二人とも――、違うか」
都の様子を見て桔梗は小さく溜息をつく。
「神楽坂都と言ったか? お前は、一度、心の整理をするために家に戻った方がよい。親しい者を亡くした気持ちは私も分かる。亡くしたのが肉親であるのなら、きちんと送ってやるのが、人間としては当たり前の事だからな。その方が、色々と整理もつきやすかろ――」
途中で険しい表情をした桔梗が口を閉じる。
そして、上空を見上げた。
すでに夜の帳が落ちていた空は、周囲に灯りがない神社内において星が無数に瞬き神秘的な星空を見せていたが、その星空が一瞬、強く光ると同時に、寒川神社全体が震えた。
何かしらの物理的衝撃が、寒川神社の上空に一瞬浮かんだ光の膜と衝突した結果であったが――。
「――な、なんだ!?」
「きゃああああ」
「落ち着け! 二人共! 神社に施された結界が発動しただけじゃ!」
唐突に発生した異常事態に狼狽える二人を横目で見ながら、問題ないと諭す桔梗。
都は何が起きたのか分からないまま、その場で座りこんでしまう。
そして、純也と言えば、桔梗に一括された事で周囲を見渡し――。
「え? 結界? こんな場所に?」
「当たり前じゃ。古来より神社というのは魔を払い、魔の侵入を防ぐ強固な防御結界が張られているものじゃ。それに、この神社は私が巫女をしていた時代から存在しているからのう。形だけの神社よりも、その守りは強い! それよりも――」
桔梗と純也が上空を見上げている中で数十の人影が空から降りてくる。
それらは、桔梗と純也、そして神楽坂都を見下ろし――、集団の中から一人の女の子が現れた。
年齢は10代前半で、身長は都よりも低く見た目は中学1年程度。
ただ、その容姿は、人ではありえないモノ。
肌から髪の色、さらに目の部分は漆黒の黒であった。
「――なん……だ? あれは……」
神社の結界の外――、上空に浮かんでいた見た目が中学1年生の女の子は、結界を手にしていた巨大な3メートルを超える漆黒の鎌で易々と切り裂くと一人、静かに空中を降りてくると、桔梗、純也、都の前に降り立つ。
すると少女は、身に纏っていた白いゴスロリの――、フリルが多分に盛られているドレスのスカートを片手で掴み腰を掲げると――、
「お初にお目にかかりますわ。安倍晴明様、わたくし、シュド=メルと申します。本日は、貴女様を殺すようにと、命令を受けて伺いしました」
ニコリと、神楽坂都の方へと、シュド=メルは視線を向けると頭を下げた。
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