第663話 来訪者の追撃(1)第三者Side

 大空洞から戻った桔梗を初めとした純也と都は、商工会議所の1階に到着したエレベーターから降りたところで、桔梗は二人の腕から手を離す。


「桔梗さん。一体、どうしたんですか?」


 純也が、何が起きたのか分からないと言った様子で口を開くが――、


「少し黙っているように、純也。そちらの娘も、黙って着いてきなさい」


 静かに――、それでいて強制するような物言いに都と純也は、何かあったのか? と、疑問に思いつつも黙って歩き出した桔梗の後ろを付いていく。

 商工会議所のビルから3人は出たあと、千葉市中央公園まで徒歩で移動したところで、桔梗が手を上げた。

 3人の目の前に停車するタクシー。

 

「桔梗さん、何処に行くんですか?」


 そこで純也は、桔梗に問いかける。


「黙って着いてこい」

「……都、行こう」

「う、うん……」


 タクシーに乗り込んだ3人。

 

「寒川神社まで宜しく頼む」


 桔梗は、タクシー運転手に行き先を伝えると、車は走り出した。

 5分ほどで寒川神社前にタクシーが停まる。

 彼女は、懐から財布を取り出すとクレジットカードを取り出した。


「清算はこれでお願いする」


 桔梗からクレジットカードを受け取ったタクシーの運転手は、乗車料金を決算したあと、カードを桔梗へ返し、タクシーのドアがスライドした。

 タクシーから降りた桔梗は、寒川神社の中に入ったところで溜息をつく。


「ようやく監視の目が薄れたようじゃの」


 周囲を見渡しながら桔梗は視線を寒川神社の中へと向けた。


「桔梗さん。どうして、こんな場所に?」

「お主は、もっと広い視野を持って発言しなければならんぞ? 純也」

「え?」

「桂木優斗は気が付いていたようだが、こちらを見定めるような視線があっただろう? それに気が付かなかったとは……」

「……」

「まぁ、よい。それよりも二人とも、余計なことを話そうとしていたのを感じ取ったから、ここに連れてきたんじゃが、何かあったか?」

「――え? どういうことですか?」


 そこで、一緒に同行していた都が口を開いた。


「どうもこうも、お主たちは桂木優斗の本質を知っているような気がしてな。そして、それを話すような素振りを感じたから、ここに連れてきたんじゃが……、私の杞憂であったか?」

「本質……?」


 桔梗が口にした言葉が、都には一瞬理解は出来なかった。

 そして純也と言えば――、


「桔梗さん。こんな場所に俺たちを連れてきたって事は――、あの状態から俺たちを無理矢理引っ張って、ここまで来たのは何か意味があったんですよね?」

「意味も何も先ほど言ったであろう? あそこは、監視の目が多かったと」

「それって……」

「現代で言うところのカメラが多くあったからのう。あまり第三者に知られるような話は、あの場では命とりになりかねなかったからここに来た。そう言えば、鈍感なお主でも分かるかの? 純也」

「――ッ!」

「ね、ねえ! 純也。どういうことなの? 一体、何があったの? それに、どうして、純也はあれだけ酷い怪我をしたのに、どこにも――」

「まぁ、落ち着くとよい。娘よ」

「貴方は……」

「桔梗だ。この者――、純也に霊能力者としての立ち振る舞いや戦い方を桂木優斗に頼まれておる。言わば、師匠と言ったところかの」


 桔梗は、都に対して短く答える。

 都は、目の前に凛と立つ女性を見て、美しいと感じた。

 黒い艶のある髪に、白い陶器のような美しい肌に、整った顔立ちをしている女性。

 そして、そんな桔梗は、巫女服という体の凹凸が分かりにくい服装であったにも関わらず、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという、女性から見ても羨むほどのスタイルを有していたことで、その身体付きは巫女服からも容易に察することが出来た。


「純也の師匠?」

「うむ。それよりも、お主は、このような場所に居てよいのか?」

「――え?」

「実の父親が亡くなったのであろう? ――ならば、数日中の内に葬儀が必要になるのではないのか?」

「それは……」


 ずっと色々あったことで、実の父親が死んだことに対して先送り出来ていた都であったが、桔梗に現実を突き付けられたことで、『なんで、忘れていたの?』と、自問自答するように俯いてしまう。


「桔梗さん! そんな言い方は!」

「純也。桂木優斗と同じことを言うかも知れないが、本来、死者が蘇るような事はあってはならぬのだ。それは理解しておるな?」


 桔梗は、純也の目を真っ直ぐに見て口を開いた。




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