第662話 神社庁事務次官 第三者Side
エレベーターから降りてきたのは、都であった。
そして、彼女と一緒にエレベーターから姿を見せたのは、巫女服を着た黒髪の美少女であった。
「東雲さん!?」
「東雲って……、神社庁の事務次官の?」
住良木が、神楽坂都と降りてきた女性を見て声を上げたことで、神谷が東雲を注視した。
「模擬戦、お疲れ様です」
ニコリと微笑みながら、住良木を一瞥したあと、舞台に上がった東雲は桔梗の前で片膝を――、石畳の上につく。
「出雲大社の退魔師、天野桔梗様。神社庁にお越しいただき――」
「何か勘違いしているのではないのか?」
神社庁事務次官の東雲が何かを語る前に機先を制するように桔梗が口を開いた。
「どういう意味でしょうか?」
「今の私は、出雲大社に所属はしていないということだ」
「……」
「腑に落ちない表情をしておるな。妾の所属は、人間風で言うのならフリーランスと言ったところか。だから、妾が此処に来た事に関して感謝する必要なぞない」
「……そうですか」
「それよりも――」
桔梗は、言葉を区切ると大空洞の天井を見上げる。
「また色々と用意しているな?」
「……霊能力者の育成のためです」
「モノは言いようと言ったところか」
桔梗は、目を細めると純也の腕を掴む。
「いくぞ! 純也」
「……あ」
純也は、桔梗に腕を掴まれると無理矢理立たされる。
さらに桔梗は、都の腕を掴み、エレベーターに乗り込む。
そんな桔梗を、今まで傍観していた神谷が慌てた様子で追いかけ、エレベーターの扉が閉まる前に入る。
エレベーターは一拍置いたあと扉が閉まると、地上に向けて上がっていく。
そして大空洞には、住良木と東雲だけが残された。
「東雲さん。どうして、こちらに?」
「例の八幡の藪知らずの件で――、その処理で千葉支店に顔を出していたの」
「そうだったのですか……」
桔梗に拒絶されて佇んでいた東雲に声をかけた住良木。
その声に反応した東雲は、深く溜息をつく。
「それよりも、どうやら振られてしまったようね」
その東雲の言葉に、住良木は苦笑いをした。
優斗とは違い、本当の意味で半神として昇華している天野桔梗の力は、近年では力の衰えた霊能力者しかいない神社庁としては喉から手が出るほど欲しい人物であった。
「さすがに半神を神社庁で内包するのは難しいのではありませんか?」
「仕方ないじゃないの。桂木優斗には逃げられて、峯山純也は陰陽庁に取られたのだから。それだけではないわ。エリカも、白亜様も桂木優斗の元に身を寄せているのよ?」
「それは知っていますが……」
「ふう、何も分かってないわね。桂木優斗一人だけでも神社庁の総戦力に匹敵するのよ? 手に入れられるかも知れない優秀な人材にはコンタクトを取ることは大事なの」
「桂木殿が、神社庁の総戦力と同等?」
東雲の言葉に、引っ掛かりを覚えた住良木は思わず思ったことを口にするが――、
「ええ、そうよ。今日の模擬戦を見て確信を持ったわ。桂木優斗には、霊視眼がないということを。それなら、何かあった時にやりようはいくらでもあるわ」
「それは難しいかと思われますが……」
「住良木、貴女は若くして巫女になったから何も知らないと思うけど、姫巫女様に仕えている神薙上位6位は、下位6位までとは比べ物にならない程の力を持っているのよ?」
「……なら、何も問題ないのではありませんか?」
「そんなことないわ。桂木優斗一人だけなら何とかなるとしても、それは他の取り巻きがいない状況を想定しているのだから。今は、桂木優斗は味方ではあるけれど、もし敵に回ったらと思わないのかしら?」
「桂木殿に関しては、そのようなことは杞憂かと――」
「住良木。あまり甘い憶測で語らないことね。私達は日本の霊的治安を守護する神社庁の要なのよ? 敵に回りそうな相手の戦力は正確に測る目は持っておかないとね」
「ですが、桂木殿は、本日は本気ではなかったと」
「知っているわ、そのくらい。日本政府から提供されたデータを見たもの。反物質だったかしら? 山を吹き飛ばす力」
「はい……」
「それなら問題ないわ。たしかに強力な力ではあるけれど、あの威力なら防げる防御結界を張る事は可能だもの。あとは霊視が出来ない人間なんて、どうとでもなるわ。むしろ、桂木優斗の傍にいる白亜様とエリカの方が問題だわ」
「まさか、桂木殿と戦うおつもりですか?」
「まさか」
住良木の問いかけに東雲は笑みを浮かべる。
「いまは、その時期ではないわ。あれだけの禍々しい存在。いずれは殺す必要はあるど、いま戦えば神社庁は戦力の4割を失うことになるもの。そんなことになれば、神社庁の戦力は半減。日本国の霊的結界維持が難しくなるから」
「――それでは……」
「今は、彼の――、桂木優斗という存在で国を守ってもらうのが得策ね。住良木、貴女も桂木優斗について何か分かったらすぐに報告をあげるようにね」
東雲は、笑みを浮かべたまま住良木の肩に手を置いた。
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