第661話 敗北の辛酸 第三者Side
唐突に覚醒する意識――、上手く息が出来ない中で、生存本能からか咳き込みながらも朦朧とした意識の中で純也は目を開けた。
石畳の上で寝かされていた中で、転がって目を開けたこともあり、肘などをぶつけたことで、多少の痛みを感じながらも純也の朦朧としていた意識が徐々に回復していく。
それと共に彼は周囲を見渡す余裕が出来てきた。
「――お、おれは……、一体――」
そこまで呟いたところで、純也は、ハッ! とし――、瞬時に霊力を体に巡らせ身体強化を行う。
そして、倒れていた場所から飛び退き、立ち上がるが――、
「ゆ、優斗は!?」
「もう帰ったぞ? 峯山」
唐突に動いた純也に向けて、桔梗は純也に向けていた手の平を下ろすと静かに下ろす。
彼女は、純也の目を覚ますために蛇神の力により水を作り出し、純也の頭に水を被せたのであった。
そして、たった今、目を覚ました純也に対して諭すように答えた。
「――か、帰った?」
「うむ。それよりも怪我はないか?」
「――え?」
「桂木優斗が、お主の身体を治癒し去ったが、どこか痛いところはあるか? と、聞いておる」
「そういえば……」
純也は自身の身体を動かして確認する。
「どこも痛くは……。――ッ!」
途中まで言いかけたところで純也は悲痛な表情をすると、ようやく何かに思い至ったかのように膝から崩れ落ちた。
「大丈夫か? 峯山純也」
「桔梗さん……。――お、俺は……」
言葉が詰まったかのように途中で話すことを止めた峯山純也を静かに見下ろしながら、桔梗は純也の言葉を待つ。
「俺は、優斗に負けたんですか……」
「そうじゃな」
「――ッ!?」
彼の――、桔梗が肯定した言葉に対して、純也は歯ぎしりをすると同時に、両手を石畳に叩きつけた。
「何も――、何も出来なかった! あれだけ修行したって言うのに!」
そこで、純也はようやく記憶がシッカリとしてくる。
ハンデどころか手加減さえされていたというのに、まるで歯が立たなかった記憶がフラッシュバックしてくる。
「優斗を――、優斗を何とかしないといけなかったのに! 親友として! 何とかしないといけなかったのに!」
「そうじゃな……。妾も、あの者の力を見誤っておった」
「桔梗さん?」
「あれは、対人戦闘を極めておる。神の力を手にいれたとアヤツは言っておったが、それが違うことは、アヤツが発しておる存在力を見れば分かるが――、まさか……あれほどとは思っても見なんだ」
「……桔梗さんから見ても異常なのか……」
「うむ。どういう修練を――、どういう立場に置かれたら、あそこまでの高みに到達できるのか想像もつかん。それは相対したお主も理解できたであろう?」
桔梗の言葉に、コクリと頷く純也。
悔しそうな非常をしたまま、純也は口を開く。
「以前は分からなかった……。以前は、理解できなかった……。優斗との力の差が……。――いや、分かっていた……。分かっていたつもりになっていた……。――でも、今は……」
純也は、胸中を――、自身の無力感を吐くように何度も両手を石畳に叩きつけながら叫ぶ。
そんな純也を見て桔梗は、フッと笑うと純也の肩に手を置いた。
すると、純也は顔を上げる。
「それが分かるだけで、十分にお主は強くなっておる。相手との力量の差というのは、ある程度のレベルまで強くならないと分からないモノじゃからのう」
「――でも、俺は……、俺は……。それでも……」
そこまで純也が言いかけたところで、エレベーターが停まる音が大空洞内に響き渡る。
自然と、桔梗や純也だけでなく住良木や神谷の視線までエレベーターの方へと向いた。
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