第659話 模擬戦(2)

 思考した上で思わずため息が出る。


「ハンデ戦か……」


さて――、どうしたモノか……。俺は立っている場所から、地下大空洞の天井を見上げる。

 そこには、いくつものカメラが設置されているのが見えた。

 

「どうだ? 桂木優斗」

「そうだな……。俺は左腕一本しか使わない。これで、どうだ?」

「左腕一本だけ……だと……?」

「ああ。もちろん足を使ってでの攻撃もしない」

「それは、あまりにもハンデをつけすぎではないのか?」

「そうか?」


 純也と俺の実力差から見れば、まったく動かなくても親指と人差し指だけで勝てるんだが、それだとあまりにも舐めすぎだからな。


「本当に、それだけのハンデを自身に課すつもりなのか?」

「あとは、勝敗についてだが――」


 ここはハッキリとさせておいた方がいいだろう。


「純也の身体が動かなくなるか、純也が気絶するか、どんな攻撃であろうと純也の攻撃が俺に一撃でも入れば、その時点で純也の勝利ってところでどうだ?」


 俺の提案に呆ける桔梗。

 

「それほどの実力差があるという事か?」

「さてな」


 俺は肩を竦める。

 実際には戦闘経験などを加味すれば、実力差は、それだけでは済まないが、それを口にする必要はないだろう。


「それに、これだけのハンデをつけるんだ。お前にとっても都合がいいんじゃないのか? 何か企んでいるんだろう?」「

「――ッ!」


 桔梗の顔色が変わるが――、彼女は溜息をつく。


「それでは、そのハンデで模擬戦でよいのか?」

「ああ。十分だ。それと純也に言っておけ。俺を殺すつもりで攻撃してこいと。俺を殺さずにという甘い考えで模擬戦をするようなら一瞬で勝負がつくとな」

「分かった」


 短く桔梗が答えたあと、しばらくするとエレベーターが到着する音と共に、純也と神谷と住良木が姿を見せる。


「じゃ、俺は舞台に立っているからな」


 石造りの舞台に上がり、純也達の方を見ると、桔梗が3人に近づきハンデのことを説明しているのだろうか、純也が俺を睨みつけてきた。

 会話を終えたのか桔梗が近くに移動してくると、「桂木優斗、峯山純也に模擬戦の内容を説明した」と、報告してきた。


「それと、確認したい」


 桔梗は、目を細めると口を開く。


「殺すつもりで来いと、お主は言ったが、それは、どんな技を使っても良いという事か?」

「ああ。何でも好きなだけ使え。そうしないと実力を測ることは出来ないだろう?」

「そうか……」


 桔梗は、俺から離れる。

そして、舞台の近くで俯いて待機していた純也に耳打ちをした。


「観戦者は、神谷と住良木と桔梗か」


 3人に視線を見送ったあと、俺は舞台に上がってきた純也に視線を向ける。

 純也は足元を見て近づいてくるだけで、俺と目を合わせようとしない。


「――では、二人とも模擬戦を開始してもいいですか? 桂木殿、峯山殿」


 住良木が声を張り上げる。


「ああ。いつでもいい」

「優斗」

「――ん?」


 純也が、顔を上げると俺を睨みつけてきていた。


「お前、どれだけ――」

「文句は、強さを示してから言え。弱者に、何かを語る資格なぞない」

「――ッ!?」


 俺の言葉に純也は目を見開く。


「――はじめ!」

 

 住良木の言葉が、大空洞内に響くと同時に、純也が俺から距離を取る。


「いきなり距離をとるか。それは悪手だぞ?」


 そう語り掛けると同時に、大気の振動を肌が感知した。

 それは、大気を押しのけて何かが近づく時に発生する自然現象。

 俺は、地面を蹴り左に飛ぶ。

 一拍して、俺が立っていた場所が爆散する。


「ほう――」


 不可視の攻撃か? 

 俺は、少し感心しながら左腕一本で爆散した際に飛来する石の破片の弾道を逸らし、体への直撃を避けつつ、純也の立っている場所へと一足飛びに近づく。


「はやっ!?」


 純也が、俺から距離を置くために後ろへ飛び退こうとするが、動作が遅い!

 懐に入り、純也の懐に目掛けて左腕の掌底を繰り出そうとしたところで、殺気を感じて俺も後方へと飛び退く。

 すると俺が立っていた場所の石畳が青く光る礫で砕けた。


「何だ?」


 俺は上空を見るが、何も見えない。

 青く光る小石程度の礫は、石畳を砕くと掻き消える。


「霊力を物質化して攻撃してきたのか? 中々に面白い芸当をする」

「これも避けられたのか!?」

「当たり前だ」


 俺は、飛んでくる殺気が含まれた不可視の攻撃を紙一重で避ける。


「馬鹿なっ!」


 桔梗が声をあげる。

 何を驚いているのか。

 見えないと言っても、俺に当たる瞬間には物理的法則、質量保存の法則によって、それは質量兵器として成り立つ。

 つまり、化学の延長になるに他ならない。

 それならば、俺が解析し対応できる時間は十分にある。


「この程度か? 純也」


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