第658話 模擬戦(1)

 神谷が用意したパトカーに乗り込む。

 俺が乗ったパトカーには、桔梗と俺の二人。

 そして、もう一台には神谷と純也が乗り込んだ。

 俺たちの車が出発したあと、しばらく後を追ってこない神谷達の乗り込んだパトカーが少し気になったが、問題ないと結論付けて目を閉じるが――、


「桂木優斗」


 一緒に乗っていた桔梗が俺の名前を呼んできた。

 その声色から何か聞きたいことがあるのだと察した俺は溜息をつきながら、後部座席の窓を開ける。


「――で? どうした? 桔梗」

「話は聞いた」

「何のことだ?」

「お主が、神楽坂都と交わした会話のことだ」

「そうか……。それで何か問題でもあったのか?」

「そうじゃな。特に問題はないと私は思っておる。だが、今の平和な時代を生きている人間に、お主の価値観を押し付けるのは問題ではないのか?」

「何が言いたい?」

「たしかに戦国時代であるのなら、妖怪や怪異が至るところに存在していた。それに、飢饉や山賊に盗賊など、発生していた問題ごとで亡くなった人間の数は数限りなくいた。だからこそ、私はお主の考えは理解はできる。だが――」

「今の人間には理解はできない……そう言いたいわけか?」

「そうだ」


 桔梗が、俺の方を見ずに、そう語り掛けてくるが――、


「なあ、桔梗」

「なんじゃ?」

「純也も同じ考えなのか?」

「どういう意味だ?」

「だから、純也は桔梗と同じ考えなのか? って聞いてる」

「はぁー、私と同じ考えなら、模擬戦をするような流れにはなっておらんじゃろう?」

「つまり、純也は戦闘という面に関しては覚悟は足りてないってことか」


 そう告げたところで、桔梗は盛大に溜息をつく。


「お主は、本当に――」

「何だ?」

「――何でもない。それよりも到着したようじゃぞ」

「そうだな」


 会話をしている間に、俺たちが乗っているパトカーは商工会議所に到着していた。

 パトカーから降りると、すでに住良木が建物の前で待っていた。


「桂木殿。お待ちしていました」

「今日は、すまないな。それと後続車がもう一台来るから、到着したら地下に案内してもらえるか?」

「分かっています。新島さん、宜しくお願いします」

「分かりました」


 以前に顔を合わせたことがある70代近くの神社庁の男が、「こちらへ、どうぞ」と、俺と桔梗を地下の大空洞まで案内してくれた。

 俺は、純也が来るまでの間、地下大空洞で座り待つことにする。


「桂木優斗、今日は模擬戦じゃが、全力を出すわけではないよな?」

「当たり前だろ」


 俺と純也では、実力差がありすぎる。

 そんな中で全力で迎え撃てば模擬戦にすらならずに終わる。


「ならば、ハンデを与えてみるのはどうか?」

「ハンデか……。まぁ、いいが――」


 多少のハンデは必要だろう。


「それと――」

「まだあるのか?」

「どっちかが勝ったら、何か一つ言う事を聞かせるというのはどうか?」

「……桔梗、何を企んでいる?」

「何も企んではおらぬが、何か報酬があれば純也も頑張るのではないのか?」

「……まぁ、いいが……」


 俺が負ける可能性はないからな。

 あとはハンデ次第と言ったところだよな。



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