第656話 峯山純也の回想(4)第三者Side

「……教えてください! お父様は! テロリストに、殺されたのですか!?」


 神楽坂都が、声を荒げたまま、竜道寺刑事のスーツを掴んだまま見上げるようにして、問いかける。

 そんな様子を見ていた峯山純也は、神楽坂都が何に対して思い悩み、泣いていたのか? と、いうことを遅まきながら理解する。


「(俺は、何をしていたんだ! 何を見ていたんだ!)」


 心の中で、そう毒づきながら都の肩を掴むと、竜道寺刑事から都を引きはがし――、


「落ち着け! 都!」

「離して! 離してよ! 純也! ねえ! 刑事さんっ! お父様が! お父様が、テロリストに殺されたのって本当なのっ! ねええ! 答えてよっ!」

「……」


 竜道寺は刑事として目の前の一般人に対して、どう答えていいのか考えあぐねていた。

 理由は簡単で、神楽坂都は、何の力も有していない一般人に過ぎないからであった。

 桂木優斗のように日本を守護する力を持ち、強固な精神力を持つ人間でもなく、峯山純也のように特別な力を有しているわけでもない。

 そんな少女に、何の許可も下りていない竜道寺がテロが起きたと一般人に話せるわけもなく――、


「それは……、答えられない」


 職務と立場を天秤にかけた結果、竜道寺刑事は、都のお願いを一蹴した。

 

「どうして……、どうして……、どうして何も本当のことを教えてくれないの! お父様が死んだって事しか私は教えられてないの! どうやって死んだのかも聞いてないの! だって! 普通に寝ているだけなのよ!」


 神楽坂都は、肉親を殺されたことで冷静に物事を俯瞰的に見る事が出来ずに、感情のまま思ったことを口にする。

 そんな少女を見ながら、竜道寺刑事は「たしかに……桂木警視監が死体を修復したことで、被害者親族にあらぬ誤解や希望を与えたことは確かだ……」と、心の中で呟く。

 

「申し訳ない。それよりも――」

「それ……より……も?」


 フラリと、後ろへ下がる都。

 いきなりの行動に、竜道寺に掴みかかろうとしていた都を抑えていた純也の手が離れる。


「なんなのよ……。それよりもって――、何なのよ! 優斗も! 警察の人も! まるでお父様なんて、どうもいいみたいな言い方して! 一体! 何なのよ!」

「都っ!」


 完全にパニックになってしまっている神楽坂都に対して峯山純也は、幼馴染である神楽坂都の名前を呼ぶ。

 ただ、それは――、向けられた都の瞳を見て凍り付いた。

 

「純也は良いわよね……。両親が健在だもの……。でもね! 私は……、私は……」

「だから落ち着けって!」


 どう語り掛けていいのか分からないまま、純也は都を抱きしめると竜道寺刑事の方へと視線を向けた。


「すいません。ちょっと俺は、ここから離れられないので……」

「あ、ああ……わかった」


 竜道寺刑事も自身に非があるのが分かっていたので、その場から立ち去ることにした。

 そして、竜道寺が去ったあと。


「純也。少し道場で、その娘と話し合った方がいいのではないか?」

「そうだな……、都来てくれ」


 黙ったまま、純也に手を引かれて道場へと入る都は、出された座布団の上に座った。


「――で、都。何があったのか教えてもらえるか?」


 まずは情報収集から始めることにした純也は、都に何があったのかを聞くことにした。

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