第654話 峯山純也の回想(2)第三者Side
「……い、一体……」
一瞬、純也の言葉が詰まる。
彼には、その理由に思い当たる節がなかった。
何せ、ずっと訓練をしていて現状がどういう状況なのかを把握できていなかったから。
――ただ、いつも笑顔を見せることが多い純也の幼馴染である神楽坂都の悲しい表情を見て純也は思わずゴクリと唾を飲み込む。
「何か……何か、あったのか? 都」
「……な、なんでもない……」
その無理をしているような神楽坂都の発言に純也は無意識のまま、幼馴染である神楽坂都の両肩を両手で掴んでいた。
「何でもない――は、ないだろ? 何かあったから、そんなことになっているんじゃないのか!?」
彼は――、都に問い質す声が自然と大きくなっていた事に気が付いた。
だが、純也は都の両肩を掴んだまま、幼馴染である都の顔を見下ろす。
「……」
顔を俯かせた都は、唇を閉じたまま無言のまま――、何も語ろうとはしない。
それを見て――、
「(なんだよ……。そんなに俺が不甲斐ないのかよ……)」
そう純也は心の中で毒づきながらも、
「――何かあったんだろう? ――なら、優斗に話してみるのはどうだ? アイツなら大抵の事は何とかしてくれるだろう?」
そう口にしながらも、純也の心の中では幼馴染である優斗に対する嫉妬が湧き上がっている事に気が付いていた。
異世界から戻ってきた幼馴染である桂木優斗。
純也と都の共通の幼馴染。
そこまで思考したところで純也は深く息を吸う。
今は嫉妬している状況ではないと。
それと共に彼の心の中で桂木優斗という少年の存在――、幼馴染である桂木優斗という人物が、どういう人間であったのか? という人物像が浮かび上がった。
――桂木優斗。
少年は元々、超がつくほど、お人よしで正義感があった。
そんな彼は、虐められていた人を庇ったことで、何年もの間、陰湿な虐めにあっていた。
ただ誰も優斗を助けることはなかった。
庇えば、次に標的になるのは自分だと分かっていたからだ。
保身のために他人を犠牲にして自身は傷つかないことを大勢の人間は選んだのであった。
そして、虐めは外部の人間が見て、すぐに虐めだと判断できるほど、表面化することもなかった。
そしてそれを桂木優斗少年も表面に出すこともしなかった。
だが、そんな虐めも最後には表面化した。
最初に気が付いたのは神楽坂都であった。
そして、都から相談された純也は、神楽坂都と共に中学最後の冬休み間近に桂木優斗に事の真意を確認した。
最初に話し渋っていた少年は仕方ないと言った様子で答えた。
彼は話した。
表面に出せば庇った人や、親や妹に迷惑がかかるからだと。
それを聞いて峯山純也と神楽坂都は憤った。
自身を守る術も無いのに、他人を守るなと。
教師に、どうして相談しなかったと。
ただ、優斗は一言――、たった一言言った。
自分がターゲットになっている間は、誰も傷つかないと。
本当に愚かしいほど、他人のために身体を張れる――、犠牲にする――、自身を勘定に入れていない男だった。
だからこそ、二人は、桂木優斗が高校進学の際に、同じ学校に行くことにしたのだった。
今度こそ、優斗を守れればと――。
そう、峯山純也は神楽坂都と共に優斗を守れたらと思ったのだ。
――だが! と、純也は心の中で否定する。
優斗は変わってしまったと。
――異世界から帰ってきた桂木優斗は、以前とは違っていたのであった。
そして純也自身、いまの桂木優斗には頼りたくないと感じていた部分があったことだ。
それがどういう理由なのかは、彼は理解していない。
「それは……嫌……」
神楽坂都は、小さな声で、峯山純也の提案を拒否した。
「どうしてだ?」
神楽坂都が頭を左右に振る。
それを見て、峯山純也は眉間に皺を寄せた。
「純也」
「桔梗さん?」
二人の会話をジッと横で聞いていた桔梗が、峯山純也の名前を呼ぶと、天井を見上げた。
「何か問題があったようだ」
桔梗は呟くと同時に、1階へ通じる階段を下りて純也達に向かってくる刑事を指さす。
純也も刑事が向かってきてることに気が付く。
「何か?」
桔梗に言葉を返す純也。
「ああ。それよりも、気が付かないのか? 純也」
「なに……を?」
そこで峯山純也も、桔梗が天井を見上げていたことに気が付き天井を見て――、霊視を使う事で1階の様子を確認する。
「多くの人員が集まっている? しかも、県警本部の外にも? 何か事件があったのか?」
そこで、ようやく峯山純也は何かが起きていることに気が付いた。
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