第652話 互いの価値観(2)
「純也も、それでよいな?」
桔梗が、俺に掴みかかってきようとする純也を説得するように静かに告げる。
「模擬戦とか――」
途中まで純也が言いかけたところで、桔梗が手の平を純也の額に当てると、途端に純也は歯ぎしりすると頷いた。
「(何をした?)」
霊力、魔力関係は一切、感知することが出来ない俺は首を傾げる。
何らかの超常現象に対する対応については、どうしても後手になる。
だが、それを口にする必要はない。
「――で、桂木優斗」
「何だ? 桔梗」
「どこで模擬戦を行うつもりじゃ? まさか、この建物の地下で行うのは無理があるのではないのか?」
「そうだな……、それなら打ってつけの場所がある」
携帯電話を取り出し、電話をかける。
数コール鳴ったところで――、
「住良木です」
神社庁の巫女が電話に出た。
「おれだ。桂木だ」
「――あ、桂木殿ですか。どうかされましたか?」
「じつは、商工会議所の地下の大空洞を借りたいんだが、大丈夫か?」
「いきなりですね……。桂木殿は、一応は神社庁にも嘱託の霊能力者として登録されていますから問題ないと思いますが、何に使われるのですか?」
「峯山純也が、どのくらい力をつけたのか模擬戦で利用したい」
「峯山殿ですか……」
しばらくの沈黙が流れる。
「折り返しの連絡でも大丈夫でしょうか? 一度、確認を取りますので」
「分かった」
「どうだった?」
「折り返し待ちだな」
俺は桔梗に言葉を返しつつ、周囲で俺たちの成り行きを見守っていた警察官に視線を向ける。
彼らは俺と視線が合うと蜘蛛の子を散らすように、急ぎ足で去っていく。
「桂木優斗。それでは、私は峯山純也と模擬戦に関して話すことがあるから少し峯山純也と、この場を離れても良いか?」
「ああ。決まったら連絡する。純也の携帯に」
「うむ」
桔梗と共に、純也が少し離れた場所まで移動し、何やら打ち合わせをしているのを眺めつつ、5分ほど経過した。
「長いな……」
そう呟いたときに、携帯が鳴る。
「住良木です」
「どうだった?」
「上層部からの許可は取れました。すぐに起こしになられますか?」
「ああ。そのつもりだ」
「――それではお待ちしています」
電話を切り、純也の元へと向かうと目ざとく俺が近づいてきたことに気が付いた桔梗が一歩踏み出してくると口を開く。
「どうであった?」
「許可は取れた。とりあえず商工会議所まで来てくれ。純也は、場所分かるよな?」
コクリと頷く純也。
以前に俺と戦って瞬殺された場所だ、忘れられるはずはないだろう。
「桂木警視監!」
千葉県警察本部から出ようとエントランスへ向かったところで、俺は振り向く。
するとエレベーターから降りてきたばかりの神谷の姿が。
「神谷か? どうかしたのか?」
「今、神社庁から連絡がありまして――、桂木警視監が神社庁の方に行くと」
「また、余計な事を……」
思わずため息が出る。
「余計なことって……。神社庁の地下は電話が通じないと言われて、それで報告があったのです」
「そうか。そういうことだ」
「どういうことですか! 何をしに行かれるのですか?」
そこから説明しないといけないのか……。
俺は純也との模擬戦をすることを神谷に伝える。
簡潔明瞭に。
「そうですか……。私も、同行して大丈夫でしょうか?」
「お前は、来なくても大丈夫なんじゃないのか?」
ジッと見つめてくる神谷。
そして、何かに気が付いたかのような表情をする。
「今、千葉駅周辺は、テロ爆破により住民を含む人の往来が制限されているのはご存じですか?」
「ああ。そういえば、まだ制限されているのか?」
「はい! それで! 私が同行すれば、一応、桂木警視監は少年という感じですが、私はお姉さんとして――、婦警として見られますので、その方が行動は楽になると思うのですが?」
「分かった。どうしても来たいなら別に来てもいいが、仕事は大丈夫なのか?」
「はい」
「ならいいが……」
俺と純也の模擬戦を神谷が見ても何の参考にもならないと思うんだがな……。
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