第648話 暗躍する総理大臣2(5) 第三者視点

 ――日本国首都である東京都。

 その動脈部分でもある首都高で緑色の陸自の車を黒塗りの車が複数台で付け回していた。


「くそがっ!」


 アンドレイ・チカチーロは、黒塗りの車から発砲される銃弾に行き先を誘導されるかのようにハンドルを切る。

 もちろん、何かしらの意図があって、アンドレイの動きを制限しているのは、凄腕の暗殺者である彼も理解はしていた。

 ただ、全ての装備を使い果たし応戦することもできずにいたアンドレイに出来ることは車を走らせることくらいで――、


「こちら、アーチャー。ターゲットを、目標地点ポーチントαまでの分岐路まで誘導に成功」


 ハンドルを切ったアンドレイの車の挙動を見て黒塗りのセルシオに乗車していた内閣府直轄暗部の男は無線で通信を行った。


「了解した。ターゲットを、目標地点ポイントαまで誘導しろ」

「了解。ターゲットを、ポイントαまで誘導するようにと指示があった。各自、気を抜くな。相手は各国の要人を暗殺してきた日本の敵だ」


 その内閣府直轄暗部の分隊長の指示で、ロシア駐日総領事館周辺に展開していた内閣府直轄暗部のメンバーが一斉に配置につく。

 それと同時に――、


「こちら狸穴坂近辺に配置完了。工作員により一般人の立ち入りを制限完了」

「こちら、外苑東通り、民間人の通行止めを実施。周囲の民間人の退避を完了。部隊の配置完了」

「東京アメリカンクラブを封鎖。周囲の建物に部隊の展開を完了」


 次々と舞い込む情報が、六本木ヒルズの屋上で佇んでロシア領事館を見下ろしている夏目が身につけているインカムを通して入ってきていた。


「ご苦労」


 短く夏目は、内閣府直轄暗部の報告に頷くと口を開く。


「諸君。我々は、今までロシアという国に苦渋を――、辛酸を味わされてきた。ロシアは日本との国同士の約定を破り樺太、そして北方領土を奪い日本人を拉致し殺した北朝鮮と繋がっていた。これは誠に由々しき事態である」


 夏目の口上が始まる。

 そんな中で、彼の眼下に、アンドレイと戦ったプール近くに置いておいた緑色の陸自の車が見えてきた。

 その車は、アンドレイの逃走用として用意されたモノであった。

 もちろん、その車には鍵がかかっておらずエンジンは掛かったままであり、それにアンドレイは仕方なく乗るしか出来なかったわけだが――、


 そんな車を4台の黒塗りのセルシオが追い立てていた。

 それもロシア領事館に向けて。

 

「だが! 貴殿らも知っていると思うが! 今の日本には、かつて存在していなかった強力な武力が存在している! そう! 世界各国の要人であるのなら誰もが知っている存在である! 私だけでは、成し得なかったであろう各国の不干渉条約。それが、今の日本には――、その存在には適用されている!」


 夏目は手を広げる。


「聞くがいい! 今まで、武力により世界から言論を弾圧され搾取されてきた日本は、もはや存在しない! 我々は正当な権利! そう! 復讐という権利をようやく与えられたのだ! 世界の真理は武力である! それが全ての本質! さあ、武士たちよ! いまこそ! センチュリービルを爆破したテロリストであり! 世界中の要人を暗殺してきたアンドレイ・チカチーロを! そんな非人道的な人間を保護するような領事館に住む連中を! 正義の名の元に殲滅するのだ!」


 口上が終わると同時に、ロシア領事館内のゲートを、陸自の車から降りたアンドレイ・チカチーロが潜っていく。

 そんな様子を見ていた夏目の口角が醜く歪む。


「突撃!」


 夏目の命令と同時に、部隊展開していた内閣府直轄暗部が動き出した。



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