第647話 暗躍する総理大臣2(4) 第三者視点
「この俺と違う意味で狂っているな……」
アンドレイは、そう呟きながらも何度か四肢に力を入れて肉体の機能が回復したのを確信したあと、腰から手榴弾を3つ外し、そのうちの二つを夏目に向けて投げる。
それは、直線に夏目に飛んで行ったこともあり、すぐに夏目の身体に肉薄するまで接近するが、それらは夏目の身体に触れるか否やかと言ったところ空中で軌道が逸れると、それぞれあらぬ方向へとはじけて空中で炸裂する。
そして――、手榴弾は弾けると内容物を火薬にて弾く。
「スキル『シールド』発動」
夏目がボソッと小さく呟く。
それと共に、夏目の周囲には青白い光の幕が形成され、その幕が2個の手榴弾から飛翔する物体を受け止めた。
「こざかしい――んっ?」
夏目の目の前には、1個の手榴弾が時間差で届くようにしてアンドレイは投げていた。
それが、彼の目の前で爆発する。
コンクリートの上で語らっていた二人であったが、それでも視界を一瞬でも防ぐ効果はあり、
「スキル『ウィンドカッター』」
夏目が手を横に振るう。
それにより、大気が切り裂かれ夏目の視界を一瞬封じていた埃を薙ぎ払った。
「逃げたのか……。逃亡に全力を振るうとは……。無駄なことを……。まぁ、予定どおりではあるがな……」
そう呟くと夏目は、携帯を取り出す。
「私だ。ターゲットをポイントαまで誘導しろ。そうだ、作戦通りに遂行しろ。私も、すぐに行くが、死なないようにしておけ」
命令をした日本国総理大臣は、周囲に視線を向ける。
そして――、
「スキル『エリア・ヒール』発動」
周囲に手を振るうと緑色の光が幾つもの柱として発現する。
それと同時に、アンドレイに重軽傷を負わされていた陸上自衛隊員の傷が完治する。
「さて――」
ポイント場所まで向かう為に歩き出した日本国総理大臣の目に茂みの中で部隊の指揮を執っていた自衛官が駆け寄ってくる。
「総理」
「どうした?」
「アンドレイに重症を負わされていた一般民間人ですが、総理の回復魔法により一命を取り留めたとのことです」
「そうか……。すまなかったな」
「何故に、謝れるのですか?」
「民間人に回復魔法をかけるために、お前たちに時間稼ぎをさせてしまったことだ」
「――いえ。民間人を――、日本国民を守ることこそが、我々、自衛官の使命です。それで命を落としたとしても――」
「馬鹿なことを言うな!」
自衛官の言葉を一喝したあと、夏目一元は溜息をつく。
「お前たちも、日本国民である事に代わりはないだろう? それに、お前たちにも家族はいる。――ならば、それを守るのが政治家の役目であり内閣総理大臣である私の役目でもある」
「――ですが、自分は兵士です」
「分かっている。十分すぎるほどな。だが、お前たち自衛官も私が守らなくてはならない日本国民だという事を理解してくれ」
「はい」
「分かってくれたのならいい。私は、別動隊が追い込んでいるアンドレイを追いかける」
「分かりました」
「――ところで、一命を取り留めた民間人であるが、アレに殺されかけた記憶はあったのか?」
「――いえ。恐怖体験から、その記憶は抜け落ちていたようです」
「そうか……。――ならば、情報が洩れることはないな。いいことだ。だが――」
そこで夏目は、自衛官に先ほどまでの慈悲深い表情とはまったく異なる無表情な視線を向けた。
「もし、記憶があるのなら……分かっているな?」
「分かっています!」
ビシッ! と、啓礼をする自衛官に、夏目は微笑む。
「分かっているのならいい。それでは、ここでの後始末を任せる」
「はっ!」
「――さて……」
日本国総理大臣である夏目は、スーツの胸ポケットからインカムを取り出すと耳につけると、その場から姿を消した。
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