第646話 暗躍する総理大臣2(3) 第三者視点
「殺人鬼……」
夏目の言葉を反芻するかのように言葉にするアンドレイは自嘲気味に笑みを浮かべる。
「何がおかしい?」
眉間に皺を寄せた夏目一元は、目の前で蹲っているロシアの死神アンドレイ・チカチーロを見下ろしながら、殺意を滲ませた声を叩きつけるが――、
「おかしいね」
そう短くアンドレイは、返事をした。
さらに、口が動く。
「ようやくわかった。ロシア諜報員が、見誤っていた事実が――」
「何?」
「アンタも、俺と同類ってことさ! それだけの力があるんだ! ――いや、それだけの力があるからこそ、アンタもやってきたはずだ! 俺には分かる! あんたも、俺と同類の殺人鬼だってことがな!」
「……」
「だんまりかよ! 否定も肯定もしないのかよ! だがな! 分かってるんだよ! お前の身体からは同類の気配しかしねーからな! 何十人・何百人! 殺してきたんだ? ああっ!」
「……」
「黙っていれば許されるとでも?」
アンドレイは、口を必死に動かしながら、夏目一元に吹き飛ばされたときに負ったダメージを回復させつつあった。
体の痺れは、まだ残ってはいた。
ただ、あとはそれだけであった。
痺れから回復さえすれば何とでも出来るという自負がアンドレイにはあった。
それは歴戦の暗殺者だという自信の表れでもあった。
だからこそ、言葉で時間を稼ごうと必死になっていた。
「知ってるぜ? あんたの前の日本国総理大臣、岸川だったか? そいつの家族と、時の内閣総理大臣が行方不明になったってな。これだけの力を持っているのなら、アンタが、やったんだろう?」
「ふむ。証拠はあるのかね?」
「あると言ったら?」
カマをかけるようにして、アンドレイは、言葉を呟く。
「なるほど……。本当か、どうかは知らないが……。まぁ、ロシア諜報部だからな」
そう夏目は口にすると、這いつくばっているアンドレイから視線を空へと向ける。
「岸川内閣、アレほど酷い政党はなかった。増税に次ぐ増税。アレは、財務省の犬であり経団連の犬でもあった。そして中国共産党とも繋がっていた売国奴だった」
「はん! だから、殺したんだろう? しかも自国民を!」
「馬鹿なことを言うな」
アンドレイの言葉を即答で否定する夏目。
そんな彼を見てアンドレイは危機感を募らせていた。
明らかに最初に見た夏目一元とは、違う気配を感じたからであった。
「売国奴が自国民だと? おかしな事を言う。売国奴は、自国民ではない。そして敵国に通じている時点で敵だ」
「だから殺したと?」
「それが何か問題でもあるのか? 私は、日本国総理大臣として海外と繋がっている政治屋や省庁の実権を握っている人間で腐っている奴は迷わず殺してきた。何故なら、日本国に仇名す者は、日本国民の敵であり総理大臣の敵でもあるからな」
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