第644話 暗躍する総理大臣2(1) 第三者視点
――京葉道路を北上していた黒のレクサス車内で携帯電話が鳴った。
「私だ」
「総理。神谷警視長より首相官邸に送られてきた爆破予告メールについて、詳細を知りたいと報告が上がってきました」
「関口警察庁長官。それに対して、君は何と答えたのかね?」
「確認すると――」
「君は、自分が何を言ったのか理解はしているのかね?」
「重々承知しております。ただ――」
「ただ何だね?」
「爆破予告メールについて知りたいと上告してきたのは桂木優斗からでして……」
日本国総理大臣である夏目一元は、関口警察庁長官の言葉に眉根を顰める。
「どういうことかね? 神谷警視長が何かヘマでもして情報でも漏らしたのか? それとも君が何かしらの情報漏洩でも?」
「――いえ。どうやら、桂木優斗と言う少年は、暗殺者が爆破予告をするような真似はしないと断定しているようでして……」
スマートフォンの電話口からは、焦ったような声色で、警察庁長官である関口がたどたどしい口調で経緯を説明していくが――、それに対して日本国首相である夏目一元の内心では、言い知れぬ疑惑が広がり始めていた。
「(どういうことだ? 報告にあった限りでは神の力を有していたとしても、裏の世界に関わりがあったような報告は上がってきてはいないぞ?)」
「どうも部下の神谷警視長からの報告ですと――、総理?」
「分かっている。聞いている。あとで連絡をする。それまでは余計な情報を与えるような真似はするな。分かったな?」
「はい」
そこで、電話が切れる。
夏目総理は、車の後部座席のシートに体を預けると目を閉じた。
「(それにしても、暗殺者の生態について確信を得る形で知っているというのは、どういうことだ? 神の力で、そこまで知っているようなモノなのか? ――いや、そのような事はなかったはずだ……。――なら……、どういう理由で暗殺者のことを知っている? もしかして、我々を欺いているのか? だが、超常的な力を持っていたとしても、所詮は高校生だ。――だが……)」
そこまで夏目は考えたところで深く溜息をつくと携帯電話を手にとると、電話をする。
「私だ。夏目だ」
「これは総理、どうなさいましたか?」
「先日、報告のあったロシアの原子力潜水艦ゲネラリシムス・スボロフの場所だが、いまは、どのあたりだ?」
「九十九里海岸から離れたと報告がありました」
「そうか。――と、言う事は例の人物は……」
「はい。アンドレイ・チカチーロの姿は確認できております。現在、Sの隊員が数人で追跡を行っております」
「分かった。場所をすぐにこちらへ送信しろ」
「――どういうことでしょうか?」
「時間が無くなった。すぐに情報を送れ」
「――わ、分かりました」
電話口から慌てた様子で、何かを指揮するような声色が聞こえたあと、ロシアの暗殺者の場所が夏目一元のスマートフォンの画面に表示される。
表示された場所を確認したところで、夏目は一言、「なるほど……」と呟くと、「君、私はこれから急用ができたから車から降りる」と、運転手に話しかけた。
「――え? あ、はい。総理」
いきなりの事に驚きながらも臨機応変に近くのサービスエリアに車を停めようと思考した運転手は、次の「このまま、首相官邸へ向かっておいてくれたまえ」と、言う言葉に驚く。
「総理? それでは、SPなどと合流が――」
途中まで話しかけたところで、運転手は気が付く。
後ろから気配が消えていたことに。
運転手はルームミラーから、夏目総理大臣が座っていた後部座席を確認するが、そこには誰の姿もなく――、
「また、おひとりで――。これはアリバイ作りという事ですね」
そう運転手――、第二秘書である男は溜息をついた。
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