第642話 死神からの宣戦布告(6)

 そう答えたところで、じーっと俺のことを伊邪那美が見てくる。


「何か?」

「――いや。ずいぶんと淡泊な反応を返してくると思っての」

「そうか?」

「うむ。この中には、妾を呼んでも生き返らせたい者が居たのだろう? それなのに、随分と割り切るのが早いと思ったのじゃ」

「そんなことを言われてもな……。人間なんて死ねばタンパク質の塊なんだから、そこまで気にしても仕方ないだろう」

「……そ、そうか……」


 俺は伊邪那美に言葉を返している間に、全ての焦げた遺体を修復し終える。


「伊邪那美こそ、黄泉の国の女王の癖に随分と人間なんかを感傷的に見るんだな」

「当たり前じゃ。日ノ本の民は、神の系譜であると同時に妾の創造主であり、妾の子供達でもあるからのう。その死を悼まないことはない」

「そんなものか?」

「お主もそうであろう?」

「どうだろうな……」


 そんな感覚はとうの昔に捨てたな。

 そもそも、人間に感傷的になること自体、異世界で復讐者として暮らしてきた俺には、ありえないことだし。


「やれやれ――。――で、その者か? 桂木優斗、お主が生き返らせたいと思っていた人間は」


 最後に修二の体を修復したところで、伊邪那美が確認するかのように問いかけてくる。


「そうだな。だが、すでに死んでいるから、どうしようもないが」

「その割には、お主は一切、気にしている素振りは無さそうに見えるのう」


 まぁ、都本人が死んだのなら、俺も自身がどうなるかは想像に難くない。

 だが、今回死んだのは修二だ。

 俺からしたら、別に修二が死のうとどうなろうと特に問題はない。

 戦場では人の生き死になんて腐るほど見てきたからな。


「そうか? そう見えるか?」

「うむ。お主が、どういう経験を経て、それだけの力を得たのかは知らぬが、故人を労わる人間の気持ちが理解できないというのは、問題じゃぞ?」

「問題ね……」


 別に人間が一人死んだくらいで――。

 俺は都さえ無事で居てくれれば他には何もいらないし必要としない。


「まぁ、死亡した家族や縁者と会ったら不用心な発言は控えることじゃ」


 伊邪那美は立ち上がり、「それでは、また何かあったら呼ぶとよい」と、言って、その場から去ってしまう。

 

「桂木警視監!」


 すると伊邪那美と入れ替わるように神谷が警察官を2人引き連れて俺の名前を呼びながら広間に入ってくるなり俺の傍へ来て座り込む。


「神谷か。警察本部に居ると思ったが、何かあったのか?」

「はい。じつは、今回のセンチュリービルの爆破をした者から、数日前に爆破の予告状が日本政府の運営するWEBサイト――、官邸サイトのご意見箱にメールとして送信されていたそうです」

「爆破予告メールだと?」

「はい。首謀者は、ロシアの死神アンドレイ・チカチーロだと……。裏社会では、デス・グリムリーパーという通り名があるそうです」

「デス・グリムリーパー?」

「はい。日本語では死神とも――。それで官邸側もメールを見落としていたことが今回の事件に繋がったと警察庁から情報が降りてきまして……」


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