第640話 死神からの宣戦布告(4)

「そうだな……」

「桂木警視監? どうかなさいましたか?」

「――いや。それよりも、死体は、これだけか?」

「はい」

「分かった。それでは、あとは現場検証をしておいてくれ」

「分かりました! おい! いくぞ!」


 怪訝そうな表情をして警察官たちが去っていく。


「日本の警察も大変だのう。それにしても死体を見ても表情を変えないとは、それだけ多くの死体を見ているということかのう。悲しいことじゃ」

「伊邪那美」

「なんじゃ?」

「お前の姿は一般人からはやっぱり見えないんだな?」

「当たり前じゃ。まぁ、昔――、人間の暦年から見れば縄文時代の人間達なら、我らを見ることは普通であったが、化学というものにどっぷりと浸かっている人間は、五感が鈍っておるからの。少し、位相をずらすだけで見えなくなるのは、若干――、寂しくはあるのう」

「そうなのか……」

「うむ。基本、人間は自然から作られた存在だからのう。存在軸自体は、我々と大差ないからのう。あくまでも本質はという部分ではあるが……」

「なるほどな……」

「まぁ、その点から見るのならば、お主だけは異質なんだが――」

「自分が異質だという事くらいは分かるが……」

「――で、桂木優斗」

「何だ?」

「そろそろ妾を呼び出した理由を行っても良いのではないのか?」

「ああ。そうだったな……」


 とりあえず、まずは焼死体を修復しないとな。


「まずは、生き返らせる」

「生き返らせるということは、やはりそういうことなのじゃな?」

「ああ。魂を連れてきて体に入れてもらえるか?」

「そういうことか……やはり……。諏訪市で起きた件といい、妾を本当に酷使する奴じゃな」

「まぁ、でも手伝ってくれるんだろう?」

「そうじゃな。――では、まずは肉体の修復をしてもらってもよいか? 魂を入れる器が無いと魂を招集しても容れる事はできんからのう」

「了解だ」


 首の一部を切られて焼死している死体の前に跪いて、死体を裏返す。

 そして、背骨に向けて人差し指を突き刺す。


「いつも思うが、お主には死体に対する敬意とか、そういうのはないのじゃな」

「当たり前だ。死ねば、どんな生物もたんぱく質の塊だからな」


 伊邪那美と会話をしながら、死体の背骨を砕き――、脊髄を取り出し、口に入れて咀嚼する。

 それと同時に遺伝子を解析――、


「――さて……」

「相変わらずグロいことをするのう」

「お前の肉体を修復した時も同じことをしただろう?」

「だからじゃよ。普通の人間の精神状態なら出来ることではないからのう」

「失礼な物言いだな」


 一瞬で死んだ人間の遺伝子情報を解析終了したところで、脊髄を取り出した死体に手を添え――、細胞に干渉する。

 一瞬で、砕いた背骨が修復され――、さらに焼けただれた皮膚から四肢、喉の傷から何から何まで修復した。

 その時間は、わずかに10秒程度。


「まぁ、こんなもんだな。しかし……」


 俺は思わず首を傾げる。


「どうかしたのか? 桂木優斗」

「――いや、体を修復したが、問題は心臓の拍動が起きないという点なんだよな……」

「それは問題じゃな……」

「ああ。心臓の拍動が起きないということは、何かしらの問題が起きているという事になるわけだが……伊邪那美」

「仕方ないのう。妾が拍動が起きない理由を確認してみるとしようか……」


 伊邪那美が目を閉じる。

 

「桂木優斗」

「どうだ?」


 目を開けると俺を伊邪那美が見てくる。


「この者の魂魄が確認できん。それが原因だと思うのじゃ」

「魂魄が?」

「うむ。魂魄は、人間が体を動かすために必要な力じゃからのう。それが確認できなければ、連動して本来なら動くはずの心臓が動かないのも説明がつくが……」


 チラリと見てくる。


「何かあるのか?」

「普通なら、ありえないことじゃ。日本人は死ねば全て黄泉の比良坂を通り黄泉の国に来るからのう。それが確認できない事は本来ないことじゃ」


 深刻そうな表情をして伊邪那美は口にした。

 


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