第638話 死神からの宣戦布告(2)
センチュリービルから、そごうデパートに繋がる空中回廊に出た後、俺は携帯電話を取り出す。
そして――、数コール鳴ったところで、
「山崎です」
「俺だ。桂木だ」
「――だ、旦那ですか!? ――な、何か、あったんですか?」
「どうした? そんなに慌てて」
「――い、いえ。それよりも旦那が電話してくるなんて何かあったんですか? 拳銃が必要とか?」
「いや。今は必要じゃない。それよりも伊邪那美はいるか?」
「いますが……」
「電話を代わってくれ」
「分かりました」
「伊邪那美じゃ。何かあったのか?」
「ちょっと頼みたいことがある。少し時間をもらえるか?」
「ふむ……。わかった。――で、どこに行けばいいのじゃ?」
「センチュリービルは分かるか?」
「ああ。千葉駅前の大きなビルじゃな?」
「そうだ。駅前のロータリーまで来てくれ」
「分かった」
「あと、いまは千葉駅周辺は報道管制と、検問が敷かれているが、俺の名前を出せば通り抜けられるはずだ」
「そこは問題ない。人間が、妾の歩みを邪魔することはできんからのう」
やけに自信満々に、何かを断定するかのように電話を伊邪那美は切ってきた。
「――さて……」
俺は上空を見る。
そこには一人の男が立っていた。
白髪の男。
優男に見えるが――、男は、俺の目の前に音も立てずに降り立つと無表情に口を開く。
「人間。貴様は安倍晴明か?」
思わず首を傾げる。
「何のことだ? 第一、どうして俺が、その問いかけに素直に答えないといけない?」
「決まっている。貴様が、凄まじい速度で大気を蹴り移動したからだ。そして――」
男は一歩、俺に近づく。
「ティンダロスを倒した場面は見ていた。貴様は、安倍晴明か?」
「ティンダロス?」
「牛の化身とでも言えば分かるか?」
「……ああ。白亜と戦ったやつか」
そこで、俺はようやく目の前の男が、姿を見せた理由を察する。
それと同時に疑問も湧き上がる。
「なるほど……。白亜――、安倍晴明の式神を知っているのか?」
「知っているも何も白亜は、俺の従者だ。式神なぞ知らん」
「ふむ……。これは聞いていた事と違うな……」
「何がだ?」
「――いや、こちらの話だ。それにしても貴様は、大気の成分すらも自由に変化させていたな? それでは、貴様は安倍晴明で無いのなら何者だ?」
「何者だ? と、言われてもな……」
「人ではないというのは分かる。我が姿――、仮とは言えゾロモロスの姿を――、存在を見て会話をしても何の影響も受けていないという事は、家畜ではないのだろう? だったら、人間ではないはずだ。むしろ――」
そこで、俺を警戒するような視線を向けてくる。
「この我が、こうして貴様と対峙しているだけでも、圧せられるほどのプレッシャーを感じている……。どこの惑星の者だ?」
「惑星? 何を言っているのか……」
「我々とは違うのか?」
「さあな? だが、一応は人間のつもりだが?」
「世迷言を――。貴様が普通の人間と論じれるのなら、我々も人間と呼称して謀らない物だ」
「それよりも――」
俺は、一足飛びに男の体に肉薄すると同時に、その首を掴む。
「――ぐっ!」
「あまり論じるのは好きではない。貴様が、白亜と戦った連中の仲間なら、神楽坂邸を狙った理由は、安倍晴明を殺しにきたからか?」
「……それを答えるとでも?」
「ああ。思うね」
俺は指先に力を入れていくが、それと同時に男の体が爆散する。
「――なっ!」
男の体は、液体になり周囲に飛び散ると空中で集まっていき、液体の集合体とも言えるあやふやな形になり――、
「本当に恐ろしい人間だ。貴様が、安倍晴明ではないという事は、今の行動から確認が出来た。安倍晴明ならば、我がアストラルサイドに干渉し、逃がすという真似はせぬからな」
「――何?」
「だが、お前は人とはかけ離れた存在ということは証明できた。どうだ? 家畜の中で存在しているには――、惑星文明レベルにすら達していない家畜の世界では生き辛いのではないか? 我々の仲間にならんか?」
「断る」
「それは残念だ。我が盟主に貴様の報告はさせてもらう。――ではな! 人ではない存在よ」
男は、大気に掻き消え気配が完全に消えた。
「――ちっ。逃げられたか……。それにしても……」
白亜と戦った連中――、神楽坂邸を襲った連中だという事は分かった。
つまり神楽坂邸を狙ったやつが修二を狙うために、この場に居たという事は――、安倍晴明と勘違いして神楽坂を狙った可能性があるという事。
「厄介だな……」
相手は、俺のことを人間ではないと看過してきた。
あの短時間で。
さらに、惑星文明とか別の惑星という話まで持ち出してきたという事は、もしかしたら地球で派生した連中ではないのかも知れないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます