第637話 死神からの宣戦布告(1)

 千葉駅前のセンチュリービル上空に辿り着く。


「これは……」


 神谷が報告していたセンチュリービルの最上階が爆破されたという話に嘘はなく、最上階の鏡張りだった場所は軒並み砕けており、内部が見えるほどの惨状。

 ビルに使われるガラスは強度があると、映画で見たことがあるが、それが跡形もなく吹き飛んでいるという事は、かなりの爆発があったのだろう。

 上空から足元を見れば100人を超す警察が交通整理にあたっており、検問を敷いている姿が確認できる。

 それだけでなく、次々とパトカーやバイクが到着しては、周囲に散らばっていく。


「まだ現場が封鎖されたばかりと言う事か……」


爆破事件が起きてから、そんなに時間が経過していないはずなのに、随分と迅速だな。

それだけ大事なのだろうが。


「とりあえず……」


 都の親父の安否を確認しないといけない。

 これは、絶対条件だ。

 修二が居ないと俺も困るからだが――、

 上空の――、砕け吹き飛び、今では窓枠しか存在していない場所から最上階フロアへと足を踏み入れる。

 その際に、燃え続ける炎が俺の肌を焼くが瞬時に細胞を修復させる。


「煙が厄介だな……」


 深く――、深く――、深呼吸することで、莫大な大気を吸い込む。

 それにより周囲の煙を体に取り入れる。

 普通の生物なら、一酸化炭素中毒や窒息で死ぬだろうが、俺には効果はない。

 一瞬、真空になった最上階は、酸素が消失したことで延焼反応が持続できなくなり炎が消えた。


「まぁ、こんなもんか」


 携帯電話を取り出し電話をかける。


「桂木警視監ですか? もう、到着されたのですか?」

「神谷、消火活動は終わった。すぐに医療関係者を最上階フロアに寄こしてくれ」

「――え? まだ消火活動が始まったばかりでは?」

「最上階フロアの酸素濃度をゼロにした」

「そ、それはどういう……」

「一瞬だが、真空状態にした」

「……もう、何でもありですね」


 神谷が何やら呆れた声色で呟いているが、


「小言はいい。それよりもすぐに最上階フロアに人を連れてこい」

「分かりました。すぐに救急隊員と警察官、消防隊員に連絡を入れます」

「ああ。よろしく頼む」


 電話を切り、修二と一緒に対話をしていた場所へと向かう。

 そこで、俺は眉間に皺を寄せた。


「これは……」


 膝をつき、ほぼ炭と化した人間の成れの果てへと手を伸ばす。

 見た目どおり、殆ど炭になっていて指先が触れると人間だった体は崩れるが――、


「死んでいるな……」


 戦場では、火系統の魔法で殺された人間によくある光景。

 何千、何万と見てきたモノに似ているが……、一部だけ違う部分がある。

 それは――、頭が無いということ。

 首の切り口を見れば何か鋭利な刃物で胴体と頭を両断されたというのが分かる。


「……どういうことだ? 遺伝子データーは、都と同じものだから、修二の死体に間違いはないが……」


 首無し死体であり、真っ黒に焦げた死体でもある修二の体の体内で炭となっていない生の部分を咀嚼し、解析しつつ考え込む。

 首を誰かに斬られたという事は分かる。

 問題は、センチュリービルという千葉駅前を代表する大型商業施設の一角を爆破する意図が分からない。

 すでに警察や、消防、救急が数百人単位で動いている現状は、どう見ても隠すことは不可能だろう。

 

「犯人は、何が狙いなんだ?」


 そこまで思考したところで、最上階フロアに警察官が足を踏み入れてくると、俺の元へと駆け寄ってくる。


「桂木警視監! 神谷警視長より連絡がありまして応援にかけつけました!」


 一人の警察官が、そう話しかけてくる。


「ご苦労。すぐにフロアを調べてくれ。それと死体を、ここに集めておいてくれ」

「はっ! 分かりました。生存者を確認――」

「生存者はいない」

「は?」


 センチュリービル最上階の上空に到着したと同時に、俺は波動結界で最上階フロアで生きている生物の有無は確認したが、生物の生存確認は取れなかった。


「それと、爆発原因を調べてくれ」

「分かりました」


 警察官に指示を出し、俺は波動結界を展開し、近くに落ちているであろう修二の頭を拾う。

 やはりというか完全に脳は、燃え上がる高温により完全に使い物にならない。


「伊邪那美の出番だな」


 肉体の修復は、まだDNAを採取できる部分が存在していたから何とかなるだろう。

 問題は記憶の方だが、脳がこの状態では魂を黄泉の国から連れて来るしか無い。




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