第636話 暗躍する総理大臣 第三者Side
――闇夜の中で、京葉道路を北上する黒塗りの公用車あった。
「総理。桂木優斗が、単独に行動を起こし始めたと警察庁上層部に潜り込ませていた草より連絡がありました」
乗車していた夏目一元は、電話口から聞こえてきた声に内心毒づいていた。
「(何を考えているのか……。警察庁上層部は、桂木優斗を社会的に抹殺しようと動いているというのに……)」
「総理?」
電話口から、聞こえてきた声に日本国総理大臣である夏目は――、
「聞こえている。それよりも、桂木優斗君と同乗していた神楽坂修二が雇っていた運転手の身柄は押さえているんだ?」
「はい。神谷警視長が、その身柄は押さえています」
「そうか。――では、その運転手を証人として桂木君の身柄の潔白を日本政府として後押しするとしよう」
「よろしいのですか? 今なら、桂木警視監を社会的に――」
「君は愚かなのかね? 今の日本の国防は桂木警視監が存在しているからこそだ。彼は、日本国民を守るための最後の砦であり、日本が世界で経済的に交渉する上でも最大のアドバンテージとなっている」
「それは、そうですが……。センチュリービル爆破について、犯行声明がありませんと……。死者も出ていると伺っておりますが」
その自身の秘書の言葉に夏目は、心の中で溜息をつく。
まるで、現実が理解できていないと。
「犯行声明は、既に出ている」
「――そ、そうなのですか?」
「ああ。君や一般市民は知らないが、北方領土について桂木君が国連から譲渡を受けたことで、ロシア政府は、日本に対して暗殺者を仕向けた」
「――そ、そうだったのですか!? ――で、では今回の爆破事件は?」
すでに夏目一元は、ロシアのアンドレイ・チカチーロが日本国内に上陸していることを知っていた。
「ロシア政府によるテロ行為だ。警察庁上層部には、私から話しておく。君は、運転手の身柄の確保と安全を千葉県警察本部に居る同士に命じておけばいい」
「分かりました。それでは桂木警視監のサポートに回ります」
「うむ。――くれぐれも桂木君には悟られないようにしたまえ」
「どうしてですか? 日本政府が――、総理がバックアップしている事が分かった方が彼も感謝するのでは?」
「分かっていないな? 私は、あくまでも裏方でいいのだ」
「さすがは総理です。分かりました」
電話が、そこで切れる。
「まったく――」
夏目一元は溜息をつく。
彼の言葉には幾つか嘘が含まれていた。
虚実を含むことで嘘を嘘として見抜けないように彼は話術を使ったに過ぎない。
「(桂木君は、日本にとって――日本国民にとって必要なモノだ。彼は、日本という国が生き残るためには、絶対に生き残ってもらわねばな……。その為には――、日本国存続の為に障害になりそうなモノは――)」
そこで夏目は、タブレットに映っていた女性を見つめる。
「(神楽坂静香君にも、舞台から退場してもらう必要があるかね? 流石に両親が、不慮の事故死であるのなら、彼女も頼れる相手は、桂木君しかいなくなるだろう。それに父親が死去し傾く財閥の維持と、そこから来る心労から頼ってきた少女を彼も突き放したりはしなくなるだろうからね)」
そう夏目一元は、心の中で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます