第635話 容疑者 桂木優斗(2)

「ふむ……。俺だったら、ビル付近を丸ごと消し飛ばして大規模破壊をした上で証拠もなにも灰燼と帰しているが? そんなビルの一部を破壊するような中途半端な破壊はしないがな……」


 思わず、そんな言葉が口から零れる。

 

「たしかに……」


 神谷が妙に納得したような様子で頷くが、そこでハッ! と、した神谷が頭を左右に振ると、「いまは、そういう話ではなくて」と切り出してくる。


「分かっている。――で、いまはどういう状況だ?」

「今現在、消防車がセンチュリービルの消火活動を行っている状況でして、周囲を我々、警察が交通誘導と避難指示を行っている状況です。ただ、センチュリービルの爆破はついさっきでして、人手が足りずにいます」

「そうか。――で生存者は?」

「分かりません。最上階に近づくことが火災により行えておりませんので」

「わかった」


 とりあえず、俺が出張った方が早いだろう。

 死者が居るのなら、肉体の修復が必要だ。

そして生き返らせるなら、魂の定着のため――、魂魄の誘導のためには伊邪那美に協力要請も出さないといけない。


「桂木警視監、どちらへ?」

「センチュリービルに向かう。俺が向かって対応した方が早いだろう?」

「待ってください! 桂木警視監には警察庁上層部から、容疑者としての疑惑がかけられています。下手に動けば、桂木警視監の立場が危うくなります。それに警察庁より、桂木警視監の身柄を千葉県警察本部の方で抑えておくようにと――」

「――神谷」


 俺は、神谷の言葉を聞きながら、彼女の名前を呼ぶ。

 それと同時に、周囲の警官たちが泡を吹いて倒れていく。


「――ッ!?」


 俺の言葉と同時に、神谷が顔色を真っ青に変えた。


「俺に報告するのはいい。俺に依頼するのはいい。俺に何か疑惑をかけるのはいい。そこは許容しよう。誹謗中傷も、何でも好き勝手に言ってもいい。問題があるのなら報復をするからな。――だが! 俺の行動に干渉するな」


 殺意を――、周囲に撒き散らしながら、俺は膝をついた神谷を見下ろす。


「それは国だろうと、警察関係者だろうと、俺の上司だろうと例外はない。俺の行動に干渉するのなら、死を覚悟することだ」

「分かりました……」

「分かったのならいい。警察庁上層部の連中にも報告しておけ。この俺の行動を邪魔するのなら、それは敵対行為だとな。俺は敵対行為をしたものは、女子供老人だろうと何だろうと容赦なく殺す。その覚悟を持って、干渉してこいとな」


 神谷が、頷いたのを確認したところで、俺は殺意の波動を解除する。

 それにより、神谷は額に脂汗を浮かべながらも何度も深呼吸し――、


「分かりました」

「分かったのならいい。俺はセンチュリービルに行くから、何かあれば携帯に連絡をくれ」

「はい」


 俺は、千葉県警察本部の駐車場のアスファルトを蹴りつけ上空100メートル付近まで跳躍したところで、センチュリービールに向けて移動する。


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