第634話 容疑者 桂木優斗(1)
修二と別れたあと、地下駐車場に赴いたあとは、来た時と同じように車に乗り家路につく。
千葉城近くまで車が差し掛かったところで、携帯電話が鳴る。
「俺だ」
「桂木警視監、今はどちらに居られますか?」
いきなり要件から神谷が切り出してきた。
電話口の雰囲気からも神谷が何か焦っているような様子なのが伝わってくる。
「今、千葉城の近くだが、何かあったのか?」
「おひとりですか?」
「いや、神楽坂修二が用意した車に乗って移動中だが――」
「それは、つまりおひとりでは無いという事ですか?」
「ああ。運転手が一緒にいるからな。それが、どうかしたのか? まるで、俺が一人だったら不味いような素振りに感じられるが?」
「はい」
俺の質問に神谷が完結に肯定してくる。
いつもは何があったのか報告をしてくる神谷が、何も言わずに俺の言動を肯定してくる事に俺は違和感を持ちながら――、
「桂木警視監、すぐに千葉県警察本部へ来てください」
「事情も説明なしにか?」
「申し訳ありません。ただ、いま、この電話で説明するのは大変難しく――」
「分かった。すぐに――」
「車で来てください。決して千葉県警察本部に来るまでおひとりにならないようにお願いします」
「……わかった」
仕方なく俺は頷く。
これは間違いない。
俺関係で何か問題が発生したと見た方がいい。
異世界で冒険者をしていた時に、何度か貴族が俺に濡れ衣を着せてきたことがあったが、それと非常に雰囲気からして似ている。
そうなると、俺が関与していて警察に向かう意味とは? 考えても答えはでない。
都には、白亜が付いているはずだし、妹の胡桃にはエリカが護衛に。
純也には、天野が修行をつけているはずだから滅多なことでは問題は起きないだろう。
そうなると、俺が関わっている問題で何かあるとしたら……。
「わからんな。――すまないが、千葉県警察本部に向かってくれ」
「分かりました」
運転手には、俺の会話が聞こえていたのか、すぐに脇道に入り主要幹線道路へと出た。
そして千葉県警察本部へと走り出した。
幸い、千葉県警察本部までは5分以内の距離だったこともあり、すぐに千葉県警察本部の建物が見えてきた。
車は、千葉県警察本部の敷地内に入る。
すると、すぐに10人近くの警察官が車の周りに群がってくる。
「何事だ?」
車から降りて、俺は警察官へ向けて視線を向けるが――、
「桂木警視監、お待ちしていました」
警察官の中から、神谷が姿を見せて啓礼をしながら話しかけてくる。
「随分と、重々しいな? これだけの警察官が出迎えとか何かあったのか?」
「はい。それに関してはすぐに説明致します。ただ、まずは彼を保護致しませんと――」
「保護だと?」
何が起きているのか皆目見当がつかない中で、神谷の指示で警察官が車の中の運転手に対して外に出るように促している。
運転手も何が起きたのか分からないと言った表情で、警察官の指示に従って運転免許証を出しているが――、
「……神谷」
「はい」
「運転手を保護するという事は、もしかして俺の身の潔白を証明するという事に使うのか?」
「そうなります」
そこまで神谷が答えたところで、何となく何が起きたのか事情を察することができた。
この運転手は、神楽坂修二が俺の送り迎えの為に手配した運転手であり、それまでは俺とは面識がない。
――ということは……。
「神楽坂修二の身に何かあったのか?」
そのくらいしか、思い至ることがない。
「はい。神楽坂修二が滞在していたセンチュリービルの最上階が爆破されました。それと同じくしてセンチュリービルの最上階を映していた警備カメラ。その警備室のモニターに映っていた桂木警視監が爆破容疑者として警察本部内で浮上しており、疑いの目が向けられています」
「……俺が?」
「はい。警察庁では、桂木警視監を一時的に更迭するべきという話まで上がっています」
神谷が深刻な表情で、そう切り出してきた。
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