第630話 神楽坂修二との対話(3)
俺は、肩を竦めて目の前の都の親父さんの言葉に答える。
そんな俺を見て、神楽坂修二という人物は目を細める。
「まずは食事などどうかな?」
「ご馳走になります」
修二に、店の中に案内されると、窓近くの一席に案内される。
椅子は、ウェイターが引いたので、俺は何も言わずに椅子に座り店内を見渡すが――、
「桂木優斗君、気にしなくていい。本日、ここのレストランは貸し切りにしている」
「なるほど……」
随分と奮発したものだ。
まぁ、神楽坂家としては、そこまでの出費ではないかも知れないが。
修二が席についたところで食前酒が運ばれてくる。
「俺は、一応は未成年という扱いなんだが?」
「大丈夫だ。君の飲み物については、アルコールは一切含まれていない」
「そうか」
まぁ、毒でも何でも飲めるからアルコールでも問題ないが……。
ソムリエが、ワインの地名などを軽く説明したところで離れていく。
それを待っていたかのように――、
「さて――」
そう修二は切り出してきた。
そして自身の指を絡めると、修二は口元を隠す。
「桂木優斗君。君のことを調べさせてもらった」
「そうか……」
別に都の親父さんが俺を調べるのは当然だし、それは必然だろう。
何しろ、俺は神の力を宿した人間と言う事になっているからな。
それに、都の親父さんを助けて、さらに女になっておちょくったという前科持ちだ。
「想定済みと言ったところかな?」
「そうだな……」
俺は短く――、端的に答える。
そしてグラスに注がれたジュースを飲む。
「君は、都のことをどう思っているんだね?」
「都のこと?」
「そう。君のことを調べれば調べるほど、君の行動には一貫性が見受けられない」
「ほう」
俺はグラスをテーブルの上に置くと修二の目を見る。
そして料理が中々運ばれてこない中で、修二がカバンの中からファイルを取り出すとテーブルの上に置いた。
「君は、神の力を有していると言っていた。その割には、その力を振るうのは限定的だ。それは本当に神の所業なのか? と、私は疑問に思っている」
「日本の神は、気まぐれだからじゃないのか?」
「その側面がある事は、私も知っている」
修二は尚も口を開く。
「以前に、君は、都と関わりになる事を避けるような発言をしていた」
「……」
「それは、神の力を手に入れた公平性という根源から生じる行動かと思っていたが、そうなると、それこそ君の行動に矛盾点が生じてくる。君は、娘を――、都を守ると言っていたが、その割には、君は娘から距離を取ろうとしている。それは最たる例ではないのか?」
「……」
「本当に娘を守りたいという意思があるのなら、近くで警護するのが当然のはずだ。だが、君はそれをしない」
そこで修二は、何枚かの写真を取り出す。
「この写真は知り合いのルポライターから手に入れたものだ。先日、不発弾と言う事で我が家の近くで騒動が起きたが、その際に化け物と戦っている君の姿を撮っていた者がいた」
「……」
「君は、どうして我が家の近くにいたんだ? どうして、我が家の近くで、このような化け物が暴れたんだ?」
「……はぁ。偶然通りがかっただけだ。それ以上でも、それ以外でもなんでもない」
俺は、頭を掻きながら答える。
神楽坂邸を狙った理由は、安倍晴明の生まれ変わりだという理由。
ただ、俺は都が安倍晴明の生まれ変わりだとは思っていない。
それだったら純也の方が可能性は高いだろう。
「我が家の近くは高級住宅街だ。そして近くには大病院しかない。しかも、夕刻――、面会時間を過ぎていたのに、君が近くを通りがかるのは無理があるんじゃないのか?」
修二は、さらに言葉を続ける。
「私は思っているのだ。化け物は、我が家を狙ってきたのだと。その迎撃に君が来たのではないのか? と――」
「ばかばかしい。都は、一般人だ。化け物が、神楽坂邸を狙ってくるなぞ、それこそ妄想に過ぎないだろう」
俺は修二の考えを否定する。
「都? 私は娘の名前は一言も出していないが?」
「……」
「化け物は、娘を――、都を狙ってきたのか?」
「さあな」
「それは肯定として受け取ることになるが?」
「……妄想を妄想で上積みしても意味はないと思うがな」
「君は、自身の言葉の意味が自身に突き刺さっているという事を理解した方がいいと思うが?」
「何を言っているのか俺には分からないな。第一、よく考えてくれ。金を持っていたとしても、都も修二さん、あんたも普通の人間だ。化け物と何か接点があると思っているのか?」
「ああ、思っている」
「何?」
「君という神の力を宿している存在と付き合いがある……つまり、そういうことだよ」
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