第631話 神楽坂修二との対話(4)
「つまり、俺と都の間に関係性があるから化け物が襲ってきたと――、そう言いたいわけか?」
違う意味で勘違いしていてくれている事に思わず笑みを浮かべる。
「どうかな?」
「そうかも……知れないな」
一言一言噛みしめるように、俺は修二に向けて言葉を返す。
「君は、否定をしないのだな」
「俺が否定しようとしまいが、相手にどれだけ言葉を尽くして説明したとしても、人間という存在は、自身が納得した答えしか求めないし見ることはしない」
俺は、もう人間という存在に見切りをつけているし、人間を信用していない。
人間という存在は、自らの思考に準じる考えを肯定的に認めるし、そうでなければ異端扱いして、どんな言葉を――、真実を見せられても認めることはしない。
人という存在は、どこまでも不完全で、身勝手で、どうしようもないほど、救いようがない存在だ。
だから――、
「修二さん、あんたが都に関して、俺が害悪だと思うのなら、都にそのように言ってくれて構わない」
「君は、娘を嫌っているのかね?」
嫌っているわけがない。
だが、俺にとって都は守るべき対象であった。
彼女と俺は約束した。
だが、俺は守ることが出来なかった。
だからこそ、近くに彼女が居るのは困る。
俺という存在が、彼女の傍に居ることは許されていないから。
たしかに俺が都の傍に居れば、都を守ることは白亜に任せるよりかは各段に安全性は跳ね上がるだろう。
でも、俺は彼女の傍に居る時に彼女を守れなかった。
もし、少しでも都と俺との関係性――、異世界で約束したことを少しでも彼女が知ったら、知って、どう思うのか、どう態度に表すのか、それは許容する事であり受け止めるモノであることは本来であるのなら当然のことだが、それは、俺にはたぶん……。
だからこそ、俺はこちらの世界に戻ってきた時から、極力、都とは距離を取ってきた。
それでも都は、俺に歩み寄ってきた。
それならば……。
俺は修二を見る。
「そうなのかも知れないな……」
嘘は嫌いだ。
嘘が嫌いだ。
何故なら、嘘は自分を傷つける以上に他人を傷つける行為だからだ。
「……君は」
俺を見ながら、言葉に詰まる修二を見ながら、俺は口を開く。
「修二さん。あんたには頼みがある」
「……なんだね?」
「都に――、彼女に、俺や胡桃には関わらないようにと指導してくれればいい。ただし、俺からの提言だという事は隠してほしい」
「そんなに娘との間を破綻したいと?」
「そうだな」
都には普通の人としての生活を送ってほしい。
彼女には、普通の人としての人生を送ってほしい。
それが、俺が彼女との約束を守ることが出来なかった唯一つの願いだからだ。
もう、都が傷つくのは見たくない。
もう、都には、我慢させたくない。
もう、都には、悲しんでほしくない。
だからこそ――、俺は……、俺から身を引くのは当然とも言える。
それくらいしか俺に出来ることはない。
俺の言葉に修二は、溜息をつく。
「分かった。――だが、娘がどう思うのかは話は別だ」
修二が、椅子から立ち上がる。
「話が違うだろ?」
「そんな約束はできない。本人の気持ち――、思考――、考え――、そこから導き出される答えは、人それぞれではないのかね?」
「それは……」
「娘に、二度と、君達に関わらないようにと注意することは、人の自由を奪う行為ではないのか? 人としての権利を取り上げる行為ではないのか?」
「…………あんたは、俺と付き合っているから都が危険に晒されたと言ったはずだが?」
「それはあくまでも一つの考えだと思っているが?」
「まったく、あー言えば、こう言ってくれる」
「ふっ。君ほどではない。何一つ本当のことを話さない君ほどではな」
「何を言っているのか理解ができないな」
「今日のところは、それで納得しておくとしようか。――さて」
修二が、手を叩くと食事が運ばれてくる。
「俺は帰らせてもらう」
食事が並べられていく中で俺は、退席する。
「そうか。君は――、桂木優斗君」
「何だ?」
俺は立ち上がり歩き出したところで、修二が背後から語り掛けてきた言葉に足を止める。
「君は、人を――、人間をどう見ているのかな?」
「どうとは?」
「君の中では、人という存在は、見切りをつけたと言っていたが、本質的に人をどう思っているのかな? と、思ってな」
「はぁー」
俺は溜息をつく。
そして振り向く。
修二の目を見た。
彼は、真っ直ぐに俺を見てくる。
「今では、なんとも思っていない」
そう俺は言葉を返し、その場から立ち去った。
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