第629話 神楽坂修二との対話(2)

「――え? お兄ちゃん。夜なのに出かけるの?」

 

 ベランダ伝いに部屋に戻ったところで、トイレから音が鳴ったかと思えば居間に来た胡桃に、これから出かけることを伝えたところ、驚いた表情を見せた。


「ああ。ちょっと、急用でな」

「お兄ちゃん。大丈夫なの?」

「何がだ?」

「だって――、お兄ちゃん……」


 何かを言いたげそうな表情を見せたあと、胡桃は小さく頭を左右に振り――、「なんでもない。お兄ちゃん、気を付けて行ってらっしゃい」と、送り出してくれた。

 

「マスター」

「エリカ。妹の護衛は任せたぞ?」

「分かりました。マスター」

「悪いな……」


 エリカの頭を撫でてから、俺は玄関から家を出た。

 家から出て、しばらくすると黒塗りのベンツが公団住宅の敷地入り口に停車する。

 ベンツから運転手が下りて頭を下げてくる。

 

「あの車で間違いないようだな」

「お待たせしました。桂木優斗様」

「修二さんは、車の中に?」

「いえ。幕張の本社ビルから直接来られるとのことです」

「そうか」


 運転手が開けた後部座席のドアから車内に入る。

 ドアを運転手は閉じてから、運転席へ乗り込むとエンジンをかけて車を発進させた。

 その手際を見たあと、俺は車の外の風景へと視線を向ける。

 どうやら車は千葉市内に向かっているようだ。

 むしろ千葉駅の方に向かうルートのようにも見える。


「向かっているのは千葉駅ですか?」

「はい。場所は、センシティタワ―ビルと伺っております」

「そうですか」


 センシティタワービルなると、幾つか料理店が思いつくが、あそこって高くなかったか?  

 俺が異世界に飛ばされる前は、殆どどころかまったく! 接点の無い店だったが……。

 車は、千葉駅近くのセンシティタワービルの地下駐車場に入っていき、駐車場に停車したところで停まる。


「桂木優斗様。それでは、旦那様は展望レストランでお待ちしているとのことです」

「ありがとうございます」


 俺は礼を言い車から降り、一人、近くのエレベーターに乗り込む。

 運転手から聞いた階でエレベーターを降りたところで、


「やあ、待っていたよ。桂木優斗君」

「……今回は、招待してもらい感謝いたします。神楽坂修二さん」


 俺は、努めて他人行儀のフリをして都の親父さんに対して挨拶をする。


「それにしても、自分は神楽坂さんから嫌われていると思っていました。このような場に招待されるとは、まったく思っていませんでしたから埒外でした」

「ははっ。そのような嫌味を言ってくるなんて、君は本当に変わったんだね」



 


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