第627話 そうだ! 京都へ行こう!(3)
「ただいま」
自宅のカギを開けて家に入るとトタトタと軽快な音が聞こえる共に、胡桃が姿を見せる。
「お兄ちゃん! おかえりなさい! お仕事は終わったの?」
「今さっき、終わったところだ」
「そうなんだ! そういえばね! お兄ちゃんから預かっていたカードと通帳! はい!」
胡桃が、差し出してきたのは、千葉銀行の普通口座カードと預金口座の通帳。
「それが、どうかしたのか?」
靴を脱ぎながら、俺は答えるが――、
「すっごいの! すっごい、お金が入っているけど大丈夫なの? こんなに給料もらって!?」
「そうなのか?」
そういえば、あまり給料とか気にしたことなくて殆ど見ていなかったな。
「――ん? いくら入っていたんだ?」
「680万円! 一カ月で!」
「そうか……」
金貨68枚分か。
異世界だったら一日で稼げる額だな。
「もう! お兄ちゃん、知っていたの?」
「――いや、知らなかったが……」
それにしても、胡桃の声が上ずっている。
たしかに、高校生が稼げる額としては破格なのかも知れないな。
「――でも、お兄ちゃん」
「どうした?」
「警察って儲かるんだね!」
「まぁ、身分は、それなりに高いらしいからな」
「それなりに高いって……。お兄ちゃんって、警察での階級って警視監だよね?」
「そんなこと言ったか?」
「うん! あと書類も届いていたから」
「あー」
「――でも、これなら当分、お兄ちゃん! アルバイトとかしなくていいね」
「……アルバイト?」
俺、異世界に行く前にアルバイトとかしていたか?
思わず首を傾げてしまうが、心当たりはない。
「うん」
不思議そうな表情で俺を見てくる妹の胡桃に、「そうだな」と、合わせる。
異世界で暮らしていた時期が長すぎて、その辺の記憶が曖昧だ。
まぁ、出社しろという連絡が無いのだから、そのへんはきっと大丈夫だろう。
本当に用事があったら連絡してくるはずだからな。
靴を脱いだあとは台所で手を洗う。
「マスター。白亜は、無事でしたか?」
「ああ。無事だった。それよりも――、何のゲームをしているんだ?」
「テトリス」
「そ、そうか……」
何かブロックが落ちるような電子音が鳴っていると思ったら、よりによってテトリスか。
他にもゲームソフトがあるというのに。
冷蔵庫の中から牛乳を取り出し、居間のソファーに腰を下ろす。
「なあ、エリカ」
「どうかしましたか? マスター」
「お前は、今回の件、どう思う?」
「白亜が向かった件ですか?」
「ああ」
「正直言って、情報が少なすぎて分からないけど……。人間じゃないと思う。存在のベクトルが人間というか地球の生物は異なるような気がしたから」
「なるほど……」
霊視や霊力を有するエリカなら、妖力を持つ白亜とは違った意見が聞けると思ったが、ビンゴだったようだ。
「……地球の生物とはベクトルが異なるか……。そうなると異星人か異世界からの生物だと見た方がいいのか……」
「マスター。私が思った感想だから、それが正しいかどうかは分からないけど、たぶん危険な存在だと思う」
ゲームが映っている画面から目を離すと、エリカが真剣な眼差しで、チョコレートを口にしながら答えてきた。
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