第623話 白亜の問いかけ
白亜を抱き上げて公団住宅の屋上へと移動したあと、コンクリート製の天井に下ろす。
「ご主人様、申し訳ありません」
白亜が、何度目か分からない謝罪を述べてくるが――、
「気にする必要はない。俺が到着するまでの時間を稼いだだけで十分だ」
「――ですが……」
俺は内心、溜息をつく。
白亜の力は、俺と契約したことにより飛躍したことは確かだ。
それは、白亜から感じている力の増大を何となくだが理解したことに起因するが、俺は霊力や妖力と言ったモノを一切! 感知する力は持ち合わせていない。
そのために、どの程度まで強くなったかは知らないが――、
「お前は、300年近く引き篭もりをしていたんだ。戦闘面において多角的な視野を持ち柔軟に対応することを即日することはできない。それは、どんなに力を持ったとしてもな」
「……引きも篭り……」
「間違ってはないだろ?」
「ご主人様。妾は一応、呪物を守っていたのですが……」
「それでも引き篭もりには代わりない。例外はない」
「……身も蓋もないですのじゃ……」
「まぁ、何が言いたいのかと言うと、謝罪ばかり述べて後悔し悔いるくらいなら、それを糧にして強くなれ。戦闘経験というのは、一朝一夕で身に付くものではないからな」
「――ッ」
「まぁ、本当に戦闘経験を積みたいのなら、俺が今後、指導してやろう。ただし、手加減は期待するなよ?」
「……わかりました」
「よし。――で、四肢の修復には、あと、どのくらいかかる?」
「繋げるだけでしたら、あと10分もすれば……」
「つまり、自由自在に動かせるようになるには――」
「はい。一日は掛かります」
「なるほどな」
横になっている白亜の切断された両手両足に手を伸ばす。
そして、肉体構成を確認する。
「妖怪と言うのは、人間とは肉体構成が異なるんだな」
コクリと頷く白亜。
「一度、妖怪への変化を解除して動物に戻ることは可能か?」
「わかりました」
――ポン! と、煙が発生したかと思うと、チワワくらいの大きさの白いモフモフな狐が出現する。
ただし、その四肢はもげたままで――、
「ふむ。これなら修復は可能だな」
他の妖怪はどうかは知らないが、普通の動物ベースとなった妖怪の細胞構築内容は人間と同じだ。
それなら、人間と同じで俺の力で修復することができる。
白亜の千切れた手足を傷口に当てながら、白亜の細胞を解析する。
それは動物の細胞であり、生物の細胞。
そして――、テロメアを操作し、細胞の修復と増殖を指示する。
それにより、瞬時に白亜の両手両足は修復完了する。
「どうだ?」
また、ポン! と、音が鳴ると煙が周囲に吹き上がり、煙の中から白銀の髪を持つ美女――、白亜が姿を見せる。
「はい。完璧に修復されております」
「そうか」
「ただ、肉体の生命エネルギーがかなり――」
「そのへんはグリゴーゲンとか、足りなければ脂肪などを人間の肉体を修復する時も使うからな。我慢しろ」
「分かっています。ご主人様、お手を煩わせてしまい――、今後はもっと気をつけて対応いたします」
「ああ。それと白亜」
「はい」
「神楽坂邸の警護は、今後も任せたぞ?」
俺は立ち上がり、白亜に命令するが――、白亜は俺を見上げたまま口を開く。
「ご主人様」
「何だ?」
「神楽坂都は、異形なるモノに狙われているのは確定しております。それでしたら、ご主人様が直接警護された方が安心は担保できるのではありませぬか?」
「それは――、俺に命令をしているということか?」
「――いえ」
慌てて白亜は、頭を振り――、
「そのようなことは……」
「――なら、都の護衛は今後も任せたぞ?」
「はい……」
白亜の言ったことは、効率という面から見れば間違ってはいない。
だが、俺は――、
それ以上、言葉を口にすることなく白亜を置いたまま公団住宅の屋上を俺は立ち去った。
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