第618話 同族喰らい(2)

「愚かな……」


 妾は、化け物と化していく様相の者たちを見て思わずため息をつく。


「なん……だと……? 貴様っ! 今! なにを言ったのか理解しているのか!」

「愚かだと言った」


 カラカルと言ったか?

 ティンダロスという存在を喰らっていたのは黙って見ておったが、たしかに力は強くなり増大したことは分かった。

 それでも、妾には到底及ぶべきモノではない。

 少なくとも、妾とご主人様が出会った場所を襲撃してきたディアモルドよりは、遥かに格下。

 その力は、比べるべくモノもない。

 生物としての次元が違う。

 それを、ティンダロスと戦ったことで妾は自覚していた。


「たかが……、人間の想像で生まれた淀みの結晶が!」

「何を言われても心は響かぬ。この場を妾は守護するようにご主人様より言いつかっておる。牛の化物のようになりたくなければ、さっさと去ることだ」


 妾の言葉に、カラカルは顔色を変える。


「やはり……、家畜の想像から生まれた存在は、我らを苛立たせる!」


 カラカルは、いまだに人間の姿ままで手の平に2メートルを超えるグレートアックスを出現させる。

 そして、妾に向かって突進してくる。


「――ッ!?」


 早い!

 ティンダロスとは比べ物にならない程の速度で、瞬時に距離を詰めてくると同時に、グレートアックスを横薙ぎに振るってくる。

 それを妾はギリギリ躱す。


「……いまのを避けるのかよ」

「風を操った?」

「へえ? 目は、いいんだな? だが! 次は避けられないぞ!」


 姿が分身したかと錯覚するほどの速さで妾の後ろへと回り込んだカラカルが、面白おかしそうに笑みを浮かべながら妾に斧を突きとして放ってくる。


 ――ギィイイイイイイン


 間一髪、突き出された斧の切っ先を――、槍のように突き出ていた刃を金属化した狐の尾で受け止めた。


「斧を尾で受け止めるかよ!」

「終局じゃ!」


 妾は、両手で祢々切丸の柄を握り込むと上段から振り下ろす。

 カラカルの脳天――、頭上へと振り下ろされた妾の――、日本刀の刃はカラカルの頭上まで、あと数十センチと言ったところで、唐突の刃が光により切断された。


「――なっ!」

「はっ! 愚かだなっ!」

「貴様っ!」


 視線を――、光が放たれた方向へと向ける。

 そこには、先ほどまで存在していた数百の化物の姿は存在しておらず一つの巨大な鏡を手にしたローパーが存在していて――、


「ハハハハッ!」

「結界を破壊するはずだったのでは!?」

「誰が! 結界に直接干渉すると言った! 愚か者が! 結界を破壊すると言ったが、その方法は、貴様を殺せば、それで済む話だ!」

「カハッ!?」


 一瞬の動揺――、それによるほんの一瞬の隙。

 

「しまっ――」


 妾は、込み上げてくる血を口から零しながら、妖力制御が出来ず地面へと落下する。

 数十メートル落下し、背中からアスファルトに叩きつけられる。

 それと同時に、強い衝撃と――、そして……混濁する意識。


「妾が……、一瞬であったとしても動揺するとは……」


 何故に動揺したのか、心当たりはあった。

 それは、ご主人様の祢々切丸を破壊してしまったに他ならない。

 ふらつく体に活を入れて立ち上がろうとするが、落下で受けたダメージが――、影響がありすぎて体に力が入らない。

 

「なんだよ? つまらねーな! こんなことで――、こんな簡単な罠に嵌まるなんてよ。能力はあっても戦闘経験が足りねーな!」

「――ッ!」


 妾は頭上からの声に反応し空を見上げるが、妾の視線と交差するかのように4つの巨大な影が視線を横切る。

 そして――、遅れてくる鈍痛のあとの激痛。


「ああああああああっ」


 気が付けば両手両足が巨大な斧で両断されていた。

 私は無意識の内に痛みからか声を上げていて――、


「さて! 安倍晴明の式神には興味はないが、お前みたいなやつが他にもいるとなると後々になって問題になりそうだからな。さっさと死ね!」


 斧を右手に出現させた斧を妾の首に向けてカラカルが振り下ろしてくる。

思わず、妾は目を閉じてしまうが――、いつまでたっても痛みが襲ってこない。


「やれやれ……」


 唐突に聞こえてくる声。

 それは――、


「――に、人間が……、俺様の攻撃を素手で受け止めるだと!?」


 妾は、カラカルの動揺する言葉に目を開ける。

 すると、そこに立っていたのは……、妾とカラカルの間に割って入って、カラカルが振り下ろした2メートルを超えるグレートアックスを素手で受け止めたのは――、


「――き、貴様は! 一体……」

「俺か? 俺は、普通の日本の男子高校生だ」


 妾の主たる桂木優斗であった。

  




 


 


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