第617話 同族喰らい(1)

「なんじゃ、あれは――?」


 結界が壊されたと同時に上空を見上げた白亜は、数百を超える存在力に視線を向けつつも眉間に皺を寄せる。


「クククッ……。愚かな……。安倍晴明の式神よ」

「貴様っ」

「我らが、安倍晴明を抹消するために単体で来るわけが無かろう……。何かがあった時の為に、我との契約が切れた時に、援軍が駆けつけるのは道理。その程度のことすら気が回らないとは、やはり式神だな……」

「……」


 無言でティンダロスへと視線をむける白亜。

 すると突然、ティンダロスと白亜の間に一瞬にして姿を現す紫色の肌をした金髪の男。

 男は口を開く。

 

「ティンダロス、何をしている? このような程度の低い結界に閉じ込められるとは……、恥を知れ!」

「カラカル……。お前……。コイツは! コイツは! あの安倍晴明の式神なのだぞ!」


 ティンダロスは青い焔に巻き付かれ燃えながら、よろめきつつ病院の壁に身体を預け吐き捨てるように言葉を吐露する。


「ふんっ! 安倍晴明の式神一匹処理できぬ無能の分際で何を言うのか!」

「待てっ! そやつの力は、あの九尾の力に匹敵するのだぞ!」

「もうよい! 貴様らっ! この地を蹂躙し安倍晴明の転生体である神楽坂都を抹殺しろ!」


 カラカルは、頭上に手を上げると同時に振り下ろす。

 それが攻撃侵攻の合図かのように、数百もの来訪者たちが神楽坂邸へと殺到する。


「そうはさせぬ!」


 白亜の妖術が発動し、数千の狐火が壁を作り出し、降下しつつあった来訪者の集団を数十体焼き尽くす。

 さらに、焼けた来訪者が壁となって次々と来訪者を焼いていく。


「何を馬鹿正直に突っ込んでいる! 頭を使え! 愚か者ども!」

「カラカル様! ――で、ですが! 日が沈んだ現状では使える力は限られております」

「妖術と言っても限りがあるだろう! 質量と物量で推し続けろ! それと――、あの妖怪を殺せばよいだろう!」

「――わ、分かりました」


 そんな姿を見ていた白亜と言えば、目を細めると――、


「来訪者というのは馬鹿であるのか?」


 白亜は、手を横一閃に振るう。

 すると、白亜の右手には一本の大刀である祢々切丸が出現する。


「神社庁から預かっておったが、丁度よい。貴様ら、一匹残らず妾が殲滅してしんぜよう」

「――ちっ! 調子に乗りおって! たかが妖の分際で!」

「貴様……」


 カラカルへと注意を向けた白亜は眉を顰める。

 そこには、先ほどまで存在していたティンダロスは存在しておらず、カラカルの足元には緑色の液体が広がっていた。


「まさか、仲間を食らったというのか?」

「仲間? ふん! 貴様たち、妖怪も同じことをするであろう? 利用できない、無能な存在は吸収し力にする。それは、どこの世界も代わりはしない。それと同時にティンダロスからの記憶により貴様の力は大体理解はした。お前たち! この狐は、このカラカルが押さえておく。お前たちは、この妖の結界を突破しろ!」


 ティンダロスの指示に、一斉に人の形をしていた来訪者たちが触手を体に生やしたローパーのような化け物へと次々に変わっていく。



 

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