第616話 砕かれた結界
青い焔に包まれ肉が焼ける匂いが結界内に立ち上る。
「グオオオオオオ。こ、こんな……これほどの妖を――! まだ、復活したばかりだと聞いていたのに……。やはり……、安倍晴明めっ! またしても、我々の邪魔をおおおおおおおおお!!」
断末魔と憎しみの怨嗟が篭った絶叫とも言葉を吐露するティンダロス。
その様子を冷淡な表情で見つめていた白亜はハッ! と、すると同時に上空を――、結界で覆われている空へと顔を上げて視線を向けた。
それと同時に結界が粉々に砕け散る。
「――何が起こった?」
結界が解除されたのではなく破壊された事に戸惑う白亜。
そのころ、同時に住良木達、神社庁の退魔師も何が起きたのかと上空を見上げていた。
「結界が! 結界が、壊された!?」
「住良木様! 上空に影が!」
住良木の近くで結界を張っていた霊能力者の一人が上空を指さす。
それに合わせて住良木は、破壊された結界の上空へと目を凝らす。
「何……? あれは――」
住良木が見たのは――、彼女の視界に入ってきたのは、人間であった。
だが、それは霊能力者から見れば――、物理学を知っている人間から見れば、ありえない様相であった。
「そ、空に浮かんでいる? 妖怪でも神でもない? ただの……」
人間? と、心の中で思ったところで、住良木は自身の体が震えている事に気が付く。
「ち、違うわ……。あれは、神でも……、妖怪でもない……? ――なら、あれらは……」
結界の上空。
100メートルの位置に佇んでいる数百を超す数の人影。
それは人の形を取ってはいたが空中に浮かんだまま微動だせず眼下を見下ろしていた。
そして、住良木達が戸惑って固まっているのと対照的に結界が破壊された事で、結界内の法則が現実世界に反映された事で病院の一画が音を立てて崩落し、さらに何十台もの車が連続的に爆発し炎上する。
「避難を! くそっ! 一体っ! 何が! どうなっているんだ!」
千葉県警の竜道寺は、霊視という力を持っていないからこそ、半ばパニックになりつつも、警官に近隣住民の避難を指示する。
そして、避難を指示し終えたあと――、
「竜道寺刑事、どちらに?」
「現状を確認する! お前たちは、一般市民の避難を最優先に動け! もし何かあれば発砲許可は、俺の権限で許す! 市民を何があっても守れ!」
「――わ、分かりました!」
すぐに命令を受けた警官は、無線で竜道寺の指示を伝えると、病院内に残った入院患者を救護に向かう。
「私達も行きましょう。何が、起きているのかわかりませんが」
「助かります」
一緒に救護活動に参加していた医療関係者や、消防士が警察官に協力を申し出、それを警察官が快諾する。
その様子を竜道寺は一目見たあと、唐突に出現した巨大な何かに向かって走る。
巨大な何かの体は青い焔が包み込んでいる。
「どうなっているんだ? くそっ!」
「待ってください!」
現状、把握のために現場に近づこうとした竜道寺の前に黒いスーツを着た男が立ちはだかる。
「待ってください? だと……? 君は一体――?」
住良木の部下でもある霊能力者の一人は、結界が破壊された事に動揺しつつも、近寄ってきた一般人に対して大声で危険だと静止をかけた。
それは、神社庁に属している人とはかけ離れた力を有している霊能力者として一般人を守る為であったが――、
「自分は、神社庁所属のA級霊能力者です。ここから先は、人間が立ち入って良い場所ではありません。すぐに、自力で動ける人は避難してください」
「ばかな! ここは大病院だぞ! 避難中と言っても、どれだけの時間が掛かるか分からにだろうが! それに霊能力者だと? 何を――」
「すでに桂木優斗氏に、神薙から連絡をしています。――ですので、二次被害が出る前に――」
警察官と言っても霊能力者ではない人間は、神社庁に所属している本当に戦闘のエキスパートから見れば一般人と遜色はない。
だからこそ、神社庁の人間である霊能力者は避難するように言葉を発した。
そんな彼の言葉を聞いた竜道寺は――、
「それは、守るべき市民を――、国民を守らずに逃げろと言っているのか? 警察官の俺に?」
「はい。すでに場の状況は自力で逃げられない者を助けながら避難できるレベルを超えています」
「そうか……」
「ご理解頂き――」
神社庁の霊能力者はホッとしたような声色で呟くが、そんな彼の言葉を否定するように竜道寺は頭を左右に振る。
「それは、できない……。神社庁の話は聞いている。化け物を相手にしていると噂を聞いている。だが! 俺たちは警察官だ!」
竜道寺は、スーツから拳銃を取り出す。
「どんな化け物と戦っていて、俺たち一般人を危険から遠ざけようとしているのは理解した。だが! 警察官は、市民を危険から守るために存在している。だから、どんな相手だろうと、最後まで一般人が避難を終えるまで時間を稼ぐのが警察官ってもんだ」
「だから――」
「分かっている。だけど、一分は無理でも一秒くらいは時間を稼げるかも知れないだろ?」
竜道寺は、深く溜息をつくと自身を通せんぼしていた霊能力者の肩を軽く叩くと横を通り過ぎる。
「……仕方ありませんね。刑事さん、私は――」
「俺は竜道寺(りゅうどうじ)幸三(こうぞう)だ」
「私は、矢田部徹と言います。それでは時間稼ぎを私も手伝います」
そう言うと矢田部は上空を指さす。
そこには、数百の来訪者が空に鎮座していた。
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