第608話 第三者視点

 さらに青い狐火は、ティンダロスに着弾し――、


「グオオオオオオオオ!」


 牛の巨漢の体で次々と爆ぜていく狐火は、漆黒の体毛も同時に焼いていく。

 さらに地面へと落下した狐火は、青い大火となって牛の怪物の体を包み込む。

 炎の中で、断末魔に近い叫びが周囲に響くが、その光景を見ていた白亜は笑みを浮かべる。


「やられたフリをする必要はないのじゃ。さっさと芝居を終まいとするがよい」

「くくくくっ――、はははははは!」


 白亜の声に反応するかのように苦悶の声から一転し、青い炎の中から所々、体毛が狐火で焼かれたミノタウロスが姿を現す。


「いいぞ! いいぞ!」


 高笑いするティンダロスを見下ろす白亜は、目尻に力を入れつつも、


「何が、そんなに楽しいのじゃ?」

「ああ? 決まっているだろう? 1000年ぶりの! まともに俺様と戦える相手が存在していたことにだよ! 近くまで来たが、安倍晴明の存在をまったく感じられなかった! まだ覚醒してないと思っていた!」


 ティンダロスの独り言に、白亜は「安倍晴明?」と、心の中で呟きつつもミノタウロスを見下ろす。


「(どういうことじゃ? まるで、安倍晴明が、ここに存在しているような事を言っておるが……。玉藻様より、安倍晴明は――。一体、どういうことじゃ?)」


 心の中で一人吐露しつつも、


「それがなんだ! 玉藻に匹敵する程の化物を従えているなんて予想外だった! ――いや、あの安倍晴明ならありえるか! だが! お前ほどの力を持つ化け物がこの場にいるってことは、あの人間の情報も強ち嘘ではないのだろうな」

「あの人間?」

「おっと――。余計な事を話し過ぎたな! まずは、お前を殺して――」


 そこでティンダロスは、神楽坂家の邸宅へと視線を向ける。

 

「安倍晴明を殺させてもらおう!」

「安倍晴明を?」


 内心、首を傾げる白亜であったが、ティンダロスが視線を向けている先が神楽坂家だと理解した途端、


「そうであるか。――なれば、この白亜っ! ご主人様の命を以てして牛の物の怪を、完膚なきまでに滅ぼすとしよう」

「ふん! 安倍晴明の式神風情が! 来訪者であり神ですらある俺様に勝てるとでも思っているのか!」


 ミノタウロスに変化したティンダロスの体はさらに膨れ上がっていく。

 その体高は20メートル近くまで巨大化し、それに合わせて体全体の大きさも比例して大きくなる。


「この俺様を倒すだと? 家畜に生み出された化け物風情が! 身の程を知れ!」


 ティンダロスは、空中に物質生成したグレートアックスを両手で持つと、一瞬で白亜の上空に飛ぶと、上段から白亜の頭上目掛けて振り下ろす。

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